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「妻が三カ月以上、まともに口をきいてくれません」とうなだれるのは埼玉県在住の石田義雄さん(仮名・66歳)。4歳年上の姉さん女房、真知子さん(仮名)は控えめでおとなしい性格だというが、その真知子さんが「3カ月も会話を拒否する」ほど怒っているのは義雄さんが勝手に生命保険を解約したことが原因だった。

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真知子さんが家計をやりくりしながら何十年も積み立ててきた生命保険。それを解約するのだから、せめて事前に相談するべきだと思うのだが、義雄さんにはそれができない理由があった。

「『よそのお姉ちゃんに慰めてもらうため』だなんて言えるわけないでしょう?」

解約は風俗通いのためだった。

「一昨年退職して、時間と金銭的余裕があったので『冥途の土産に1回くらい経験しておくか』なんて軽いつもりでソープに行ったら、ハマっちゃったんです。あそこはホント男にとっては天国ですよ。妻の更年期をきっかけに20年くらいセックスレスになって、まあ、別にいいか…くらいに思って、自分でも枯れたつもりだったんですけど、いやいや、まだまだ現役だったことに気づかされました」

以来、中堅どころの店を渡り歩いていた義雄さんだったが、ふと「中流店でこれだけサービスが良いのなら、高級店なんかもっとすごいに違いない」と考え、総額10万円近い禁断の園に足を踏み入れてしまったという。

「天国どころか極楽浄土ですよ。テレビや雑誌でしか見たことないようなスタイル抜群の美女が王様のように扱ってくれるんですから。あの満足感はお金に代えられないです」

現役時代IT関係の技術者として勤務していたという義雄さんは、「理不尽な思いもしたけど、家族のために働き家も建てられたし、娘も立派な嫁入り支度で嫁がせられた。それで満足していたつもりだったんですが、まさか余生にこんなご褒美が待っているとは思いませんでした」と振り返るが、その「自分へのご褒美」がのちに災いとして降りかかった。

風俗遊びで持病が悪化

「貯金をほぼ使い果たしたんです。退職金はけっこう残っていましたけど、妻への労いとして定年後に行こうと話していた『豪華客船で行く海外クルーズ』の約束も果たしていないし、老後の生活資金もあるから手はつけられない。とはいえ、風俗通いは止められない…そんな中の苦肉の策が生命保険の解約金だったんです」

保険の契約担当者は義雄さんの友人で、その昔「ノルマを果たせない」と泣きついてきた際に加入したものだが、「その友人も定年退職している今、何の躊躇がいるのか」と解約に踏み切ったという。ところが――。

「罰があたったんでしょうね。解約金で遊ぶようになってから僕の持病が悪化して、とうとう入院することになったんです。それで妻が保険金を請求しようとしてバレました」

「何に使ったの!?」と問い詰められた義雄さんは、隠しきれずに洗いざらい白状したという。

「無趣味の上、酒も飲まずギャンブルもやらない僕には、数百万のお金を使い込む理由をでっちあげることすらできなかった。そこですべてを話したんです」

当然だが、妻の真知子さんは呆れ果てた。

「『40年近く一緒にいて、そういう人だとは思わなかった』と言われ、医者の勧めで使っていた新薬を『お金がかかる』という理由で中断させられました。命にかかわるわけじゃないと思うので別にいいんですけどね(苦笑)」

現在、新薬同様に「お金がかかる風俗通い」を中断中の義雄さんは、妻へのお詫びとして「豪華客船ツアー」のパンフレットをあちこちから取り寄せているらしい。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)
1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。