〈インバウン丼のその後〉1食約7000円なのに日本人にもウケていた!?  流行語にもなったあの商品は今…「インバウン丼は決して高くない」

今年の初めに東京・豊洲に誕生した商業施設「豊洲 千客万来」などで、主に外国人観光客向けの外食として高価な海鮮丼が「インバウン丼」が話題となった。2024年の「新語・流行語大賞」にもノミネートされたが、現在インバウン丼はどうなっているのだろうか。

「日本人がいかに貧しくなったか。もう愕然…」

2024年のインバウンド(訪日外国人)客数、そして旅行消費額が過去最高となった。

外国人観光客が大挙して日本に訪れるなかで、各地の観光地では「インバウンド価格」といった外国人向けの価格が話題となり、「インバウン丼」が今年の「新語・流行語大賞」にもノミネートされている。

今年2月、集英社オンラインでも豊洲の新名所としてオープンしたばかりの「豊洲 千客万来」を取材し、1食約7000円の海鮮丼に対して「日本人にはムリ!」「いくらなんでも高すぎる」といった声を拾った。

当時、SNS上では「高い」「誰が食べるんだ」といった悲鳴があがる一方で、円安の日本の状況を鑑みて「これが世界基準だ」「日本人の賃金が上昇すれば…」といったインバウンド価格への理解を示す声もあがっていた。

〈インバウン丼の値段を見ると、たまげてしまう。「ぼったくりか?」と思う。でもね、そのリアクションは間違っている。そのインバウン丼を毎日食べられるくらい、日本人のお賃金が上昇すればいいわけだからね〉

〈インバウン丼・この位の価格が世界基準になってきてるのに所得の上がらない日本〉

〈まだ気づかないのかね。「インバウン丼6,980円」ですよ。大方の普通の日本人にはちょっと考えられない価格設定。日本人的にはこれ、ほぼ10倍ですよ10倍。もちろん観光客というのは気が大きくなっているから実際以上に強気の価格とはいえ、日本人がいかに貧しくなったかということですよ。もう愕然〉

その後、7月には厚生労働省の審議会で「最低賃金」が全国平均で50円を目安に引き上げられる方針が決まった。10月には衆議院選挙で与野党の議席数が大きく変わり、「年収103万円の壁」が話題となるなど、当時とは少し状況が変わりつつある。

世間をざわつかせた「インバウン丼」は今、いったいどうなっているのだろうか。

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インバウン丼、健在! しかし、食べているのは…

11月下旬、「豊洲 千客万来」の飲食店が開店する10時少し前に行くと、すでに開店待ちの人でにぎわっていた。開店直後、さっそく施設内の店舗スタッフに最近の施設の様子について話を聞いてみた。

「2月のオープン直後ほどの人ではありませんが、その後も人は入っています。ほとんどがバスツアーなどツアーで訪れる観光客ですが、ツアーだけで1日2000人くらい来るみたいです」(施設内店舗スタッフ)

たしかに、平日のランチ帯の前にもかかわらず、なかなかの人出だった。この時間は行列ができるほどではなかったが、ピークタイムには各店舗で行列もできるらしい。

肝心の「インバウン丼」も健在で、1食6400円の海鮮ちらし丼から1杯1万8000円のウニ丼まで、話題の豪華な海鮮丼もあった。この日、1食1万円のウニ丼を食べていた香港出身のラウさんに話を聞いた。

「ふだん、香港でもウニは食べますが、ここのウニはとてもおいしかったです。値段が高いか? 香港ではもっと高いので、特に値段は気になりませんでした」

やはり、円安の影響もあってか訪日外国人観光客にとっては「高すぎる!」というわけではないようだ。

また一方で、外国人観光客向けと思われたこの店に、多くの日本人の姿も確認できた。

「外国人観光客が多いと思われがちですが、日本人の方もよく召し上がられます。関東近隣のツアーの方よりも、遠方地からいらっしゃるツアーの方は、なかなか東京に来ることも少ないからか、(高価な)海鮮丼を注文する傾向にあるように思います」(施設内店舗スタッフ)

実は「インバウン丼」は外国人観光客だけでなく、旅の記念に食べる日本人も一定数いるのだ。

日本人相手の「インバウン丼」の効果について、インバウンドビジネスに精通している株式会社ビヨンドのマーケティングソリューション事業部・藤咲さんに話を聞いた。

「結論から言うとインバウン丼は決して高い商品ではありません。飲食業の方々が今後、戦略的に取り組むことで日本人顧客の獲得につながります。日本人顧客への有効性について、メリット、デメリット両面から考えてみました」(藤咲さん、以下同)