「SNS型ロマンス詐欺」の被害者数が、年齢や性別を問わず増加の一途をたどっている。2024年1〜9月期の被害額は約271億円に達し、前年比で約159億円増加した。警察庁もこの状況を重くみて、注意を呼びかけている。今回は被害経験者の鈴木さん(仮名)・70代男性の体験談を、そして一般社団法人詐欺防止ネットワーク代表理事の松田俊也氏に、SNS型ロマンス詐欺の横行の背景、騙されないための身構えについて聞いた。
大企業の名義を騙るなど手口が巧妙化
SNS型ロマンス詐欺とはどんなものなのだろうか。被害経験者の話を聞くと、想像以上に手口が巧妙化していることがわかる。
鈴木茂さん(仮名)は、コンサルティング会社を経営する70代の男性だ。昨年と今年の2件の被害により、総額約340万円を騙し取られたという。
1件目はSNS型投資詐欺だ。2023年10月、暗号通貨やFXで利益を得ているという100人規模のLINEグループに突然招待され、資金を投入し約300万円の詐欺被害に遭った。コンサルタント業で生活が不安定な中、身内の入院費を工面したい思いから、お金を増やそうとしたという。
2件目がSNS型ロマンス詐欺で「ローソンチケット」を利用したケースだ。被害額は約40万円にのぼった。きっかけは2024年8月、Facebookで受け取った友達申請だった。
「ロマンス詐欺の存在はニュースで知っており、LINEでの投資被害にも遭っていたので、警戒心はありました。それまでにもFacebookに何度か、おそらく中国系の人から不自然な日本語のメッセージが来ていたため、当然相手にしていませんでした。
でも被害に遭ったときは、日本人らしい名前と顔写真の人からリクエストが来たので安心し、友達申請を許可しました。その人が綺麗だったので、食事に行くような友達になりたいと思いました」(鈴木さん)
国際ロマンス詐欺の認知度が高まり、不自然な日本語での連絡に対して警戒心を抱く人は増えている。しかし、鈴木さんに送られてきたメッセージは多少不自然な点があるものの、詐欺目的で書かれたものだと疑うほどではない。好みの異性からの好意的なメッセージに悪い気はせず、冷静な判断も難しくなる。
その後、LINEでのやり取りに移行し、他愛もない会話の中で鈴木さんが仕事について尋ねる。相手の仕事の内容は、ローソンチケットの販売数を増やすもので、40回チケットを予約すると、予約金額の1%のキックバックが得られるものだという。
会話を進めると、「私のアカウントでは1日40回しか予約できないが、もっと稼ぎたいので手伝ってほしい」と提案される。同情心が芽生えたこともあり、協力しようという気持ちになったそうだ。
その後、(偽の)ローソンチケットのサイトに招待され、アカウントや口座の登録をした。指示通り40回チケットを注文すると、架空の口座に利益が反映された。鈴木さんによると、実際にお金が振り込まれたことで、完全に信じてしまったそうだ。
そして、新たにチケットを購入するために、指定された口座にお金を振り込んだ。しかし、40回の購入に達する前に残高が不足し、振り込みを繰り返すことになる。当初数千円だったチケットの金額が、次第に数万円へとふくらんでいった。金額が大きくなった段階で、ようやく「おかしいな」と気づいたという。
LINEのやり取りを見ると、「予約したチケットはどこに行くんですか?」という不都合な質問に回答しなかったり、次第に言葉遣いの不自然さも散見されるようになったりするなど、怪しい点も出てくる。しかし、相手の感情に巧みにつけ込むやり取りもあり、判断力が鈍る理由も理解できる。
「暑くてあまり食欲がないので、さっぱりしたものを食べるのはいいですね」
「おいしいお酒、ぜひ一緒に楽しみたいですね」
「今日はもう遅いので、早く休んでくださいね」
こういったさりげないコミュニケーションは日常的に行なわれており、鈴木さんが辛い経験を打ち明けたとき、「私も同じような経験があって…」と共感を示してくる場面もあった。
「下落合に住んでいると言われ、運転免許証まで送られてきたんです。さらに、自撮り写真や食事の写真なども送られてくると、その人が実際にいるような感じがして、信じてしまいました。それに、月に数百万円儲かると言われたら疑いますが、月30万円という控えめな金額にリアリティを感じましたね。ローソンという大企業の名前を利用していることにも、安心感を覚えてしまった」(鈴木さん)
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入金額が反映される架空の画面
SNS型ロマンス詐欺の前身にはSNS型投資詐欺があるという。
「2021年頃からLINEを利用した投資詐欺が急速に広まりました。投資の勉強会などを口実にLINEグループに追加され、投資アプリやサイトへ誘導されるのが典型的なケースです」(一般社団法人詐欺防止ネットワーク代表理事の松田俊也氏)
鈴木さんの1件目の被害のケースである。
最初は「10万円が数か月後に数倍になる」といった形で少額投資を促され、軽い気持ちで始めてしまう被害者が多いそうだ。
投資資金の入金先は架空の口座だが、詐欺師たちが作り上げた架空の画面上では入金額が反映される。そして、投資が成功し、利益を獲得しているかのような錯覚を与える。
被害者が儲かると思ったところで、さらなる投資を促すのが常套手段。いざ出金しようとすると、「事務手数料として100万円が必要」などと言われる。この金額を振り込むと突然連絡が取れなくなり、詐欺であることに気づくのだ。
投資の形態は多様化しており、金投資やネットショップの共同経営も増加傾向にあるという。松田氏によるとこれらの詐欺では、使い捨ての口座が利用されるため追跡が困難で、警察も犯人を特定できず、被害金の回収はほぼ不可能だという。
「また、SNSを利用した投資詐欺はロマンス詐欺と親和性が高く、SNS型ロマンス詐欺として近年主流となっているんです」(松田氏)