草なぎ剛が主演する舞台「ヴェニスの商人」が12月6日から上演される。本作は、ウィリアム・シェークスピアによる不朽の名作。シェークスピア作品初挑戦となる草なぎが主人公のシャイロックを演じ、野村周平、佐久間由衣、忍成修吾ら実力派が脇を固める。今回、シャイロックの娘・ジェシカを演じるのは華優希だ。舞台「千と千尋の神隠し」でロンドンでの公演も成功させるなど、さまざまな経験を経て本作に挑む華に、意気込みや稽古の楽しみなどを聞いた。

-出演が決まったときの心境を教えてください。

 すごくうれしい気持ちと、それと同じぐらい緊張感がありました。

-シェークスピア作品は初挑戦と聞いています。

 400年前に書かれて上演され続けている作品ですし、これまでも数々の俳優の方々が通ってきた道だと思うので、そうした作品に私も関わることがとてもうれしいです。今まで演劇の勉強などでシェークスピアに触れる機会も多かったので、実際に舞台で演じられるということに喜びを感じています。

-シェークスピア作品というと、どんなイメージがありますか。

 言葉が豊かだからこそ、解釈が難しい印象です。読めば読むほどすてきな言葉がちりばめられています。本読みで演出の森(新太郎)さんや翻訳の松岡(和子)さんのお話を聞くたびに、こんな意味もあったんだと発見がたくさんあって、シェークスピアの作品には本当にいろいろな面白さがちりばめられていることに気づきました。自分も見ている方にそうした面白さを伝えられるようにお芝居を作っていかなくてはと思っています。

-この作品では、挑戦をすることへの楽しみも大きそうですね。

 大きいですね。これまで私が出演してきた演劇に比べても、より会話に重きが置かれているので。楽曲の力を借りず、言葉の力で伝える作品なので、また新たな挑戦になると思っています。

-脚本を読んだ率直な感想は?

 本作の脚本を読む前に、本屋さんで売っている戯曲を読んだのですが、ユーモアがある喜劇で、面白いなというのが最初の感想でした。ですが、深く読めば読むほど、楽しいだけではなくて。どういうふうに自分の役をかみ砕いていくのかが、これから頑張っていかなくてはいけないところだなと思います。

-演じるジェシカという役柄に対してはいかがですか。

 初めて読んだ印象としては、若いなと。それは、ただ年齢が若いだけではなく、若いエネルギーがあるというイメージです。父に反発して駆け落ちをするというのは相当なエネルギーだと思います。今、お稽古に入って、また少しずつジェシカに対する印象も変わってきていて、若くて、強さはあるけれども、傷つきやすさや大きな葛藤も抱えているのだなと。父に対する思いや、ユダヤ教からキリスト教に改宗するという複雑さもあるし、そうしたものをどうやってすり合わせていくかが今後の課題だと思います。

-時代背景もありますし、全てに共感するのは難しいと思いますが、その中でもジェシカを理解できるところや似ていると感じるところはありますか。

 ユダヤ教に関することは、現代の日本で生きてきた自分だと、本当の意味で心の底から理解することは難しいかもしれません。ただ、もし、共感できるところを探すならば、恋をして、恋人と駆け落ちをするようなエネルギーかなと思います。私は、高校から大学に進学するはずだったのですが、5年間続けた部活も全て辞めて、入学が決まっていた大学も辞退して、親に反対されても宝塚音楽学校に行くことを決めました。あのエネルギーも今考えると若さからくるものだったのかなと思います。なので、理解できるところは、反発があっても自分が思う道を選ぶ意思かなと思います。

-お稽古も進んでいると聞きます。稽古場の雰囲気はいかがですか。

 すばらしい俳優さんばかりで、皆さん、思いの丈を芝居に込めてぶつけていらっしゃることを感じるので、私ももっともっと大胆に挑戦しなければと感じています。

-主演の草なぎ剛さんの印象は?

 ずっと遠くから拝見していた方ですので、まずこれほど近くでお芝居を浴びられることが感激です。シェークスピアの言葉って、下手するとただ言葉の羅列になってしまう恐れがあると私は感じていますが、草なぎさんのせりふは、一言一言が胸に染み込んできて、どうやったらこんなお芝居ができるんだろうと、毎日、勉強させていただけるのが喜びでもあります。

-ところで2024年は舞台「千と千尋の神隠し」など忙しい1年だったと思います。改めて2024年を振り返って、どんな1年でしたか。

 ありがたいことにひたすら「千と千尋の神隠し」に没頭させていただけた1年でした。1月からお稽古が始まって、8月まで公演させていただいていましたので。

-「千と千尋の神隠し」ではロンドン公演もありましたね。

 日本文化や「千と千尋の神隠し」という物語が愛されていることを肌で感じて、とてもありがたい経験をさせていただいたと思います。やっぱり、数日間、旅行に行くだけでは感じられない、実際に自分が現地で働いたからこそ感じる、演劇のあり方を感じることができました。ウエストエンドという歴史のある演劇の街で、そうしたことを身をもって体感させていただけたのは、すごく大きな出来事だったと思います。

-どんなところに日本とロンドンの違いを感じましたか。

 ロンドンではより演劇が身近にあるものなのだなと思いました。日本だとやっぱり敷居が高いと感じる方にとっては手が出しづらいものなのだと思いますが、ロンドンではもっと生活に溶け込んでいるように思います。どちらが良い悪いではなく、それは演劇の歴史の違いだと思います。劇場がロンドンの人たちの中に自然と存在していることに一種のカルチャーショックを受けて、いい意味で、こんなにも身近でいいんだなと思いました。それは、お客さまとの距離もそうですし、自分の生活との距離もそうです。それから、日常からとても豊かに感情表現をされるので、裏方で働いているスタッフさんもずっと歌ってらっしゃったり、踊ってらっしゃったり。そういう光景は日本では見られないので、心からこの仕事やこの舞台を楽しんでいるんだなと感じました。そうした方と一緒に仕事ができて、そして、本当に舞台を楽しみに待ってくださっている方に届けられたというのは、今後の励みにもなると思います。

-2025年の目標は?

 まずはこの作品です。怖がらずに、いけるところまで挑戦していきたいなと思います。守りに入らず、森さんの演出や松岡さんが訳されたシェークスピアの言葉、そして共演者の皆さまとのお芝居といったものの力を全て借りて、挑戦していけたらなと思っています。そして、2025年も、たくさん人の影響を受けて、変化を恐れない年にできたらと思います。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 舞台「ヴェニスの商人」は、12月6日~22日に都内・日本青年館ホールほか、京都、愛知で上演。