中国国旗(画像はAIで生成したイメージ)
日本人が中国に入国する際の短期滞在ビザ(査証)の免除措置が11月30日に再開された。
中国外務省が11月22日の記者会見で明らかにしたもので、「商業・貿易、観光、親族訪問、交流・訪問、トランジットを目的とする」(中国大使館HPより)短期ビザ免除で、滞在可能な日数を停止前の15日以内から30日以内に広げるという。
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来年末までの時限付きであるのは、トランプ次期米大統領就任後、米中対立が激しくなるのを見据えた措置だと見られている。
ただ、この降って湧いたかのような友好ムード(?)に、石破政権の成果なのか、経団連の後押しなのか知ったところでどうにもならない…とがっくり肩を落としているのは、中国現地に進出する日本企業の駐在員だ。
すでにSNS上は、落胆の声で溢れている。
「終わった……俺の快適駐在生活」
「15日から30日(に増える)って謎。仕事も倍?」
「駐在経費を削っての出張増。本末顛倒すぎる」
日本企業の駐在員がなにより恐れているのは、出張者に対するアテンド(付き添い、世話)増である。
特に本社からの訪問者の場合、その対応が予算獲得など現地法人全体の評価に影響しやすいので、過剰な配慮が行われる傾向が根強い。アテンド対応は評価の対象外――と口頭で伝えたところで、どこの誰もが額面通りには受け取らない。
実際中国に20年近く居た小弟(著者)は「お偉いさんがふらりとやって来て、仕事だけ猛烈にこなして帰国していった」というケースは、2~3件しか存じ上げない。そういう会社はその会社自体が伸びているか、そういう出張者は本社で出世しているか、早々に他社に引き抜かれ転職しているか、都市伝説レベルの逸話だ。
本音は「O・K・Y」=「おまえが来てやってみろ」
中国大使難のHPより
「おもてなし」という名の、権謀術数うずまくアテンドの現場は、悲劇であり喜劇でもある。移動手段の手配に始まり、ホテルやレストランの予約、現地観光の計画など、多岐にわたる準備が必要になる。しかも本来の業務以外に時間とエネルギーを割くことになるから、担当者の負担が増大するという仕組み。
読者諸兄のなかには、中国でアテンドされる機会に恵まれた出張者がいらっしゃるだろう。その際にはぜひ「O・K・Y」を知っているか否か、担当者に質問することをおすすめする。
「O・K・Y」とは、「O:おまえが」「K:来て」「Y:やってみろ」の略。現地駐在員の隠語である。以下、現役現地駐在員の偽らざる本音を集めてみた。
「通訳として帯同させた女性スタッフが『気が利かない』と難癖をつけられた。日式カラオケ店に繰り出す晩飯後に、毎回『じゃあ今日はこのへんで。タクシー帰宅していいよ』と通訳に頭を下げるこっちの身にもなってみろ。エロ爺に態度が悪いのは当たり前」(広告代理店40代)
「アテンドは基本、通常の業務時間外で対応させられている。本社で残業削減の号令をかけている張本人はあんただろ。ローカル社員に一番嫌われているのは出張者」(流通30代)
「出張毎に美食レベルを上げてくるのは止めてほしい。こっちはアテンドのせいで年間100日以上が中国料理。北京ダッグを見るだけで吐き気がする。たまには胃にやさしい日本料理店で許してほしい」(金融50代)
なかには、こんな切羽詰まった意見も。今年9月、中国・深センで日本人学校に通う男児が襲われ、死亡した事件を受け、
「うちの駐在者は“注意喚起”だけです。今年の12月3日『南京事件』の日は、娘の通う日本人学校は休校です。残りの日本人学校もオンライン授業に切り替わるそう。最近は毎日のように無差別テロも発生しています。こんな国に『注意喚起』した本人がのこのこ視察にやって来るなんて…。社命で着任した駐在に対して家族帯同が自己責任という態度なら、本帰国を直訴します」(中堅商社40代)
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日本人向け夜遊び市場も復活!?
現役の現地駐在員が戦々恐々としていることがもう1つ。アテンドでお約束の夜遊びだ。
ところが、2019年12月初旬に中国の武漢市で第1例目の感染者が報告されて以来、ほぼ5年近く中国政府はすべての入国者にビザを要求。中国現地への物見遊山的な出張も控えられてきた。
そんな溜まりに溜まったアテンド欲を引き受け取るのも、悲しいかな駐在員のお仕事なのである。
中国現地の日本人コミュニティには必ず日本語のフリーペーパーがあり、『特選タウン情報』も顔負け、スキンレス春川先生もビックリの夜遊び広告が、相変わらず掲載されている。
在留邦人向けの週刊日本語フリーペーパー11/25号より
在留邦人向けの週刊日本語フリーペーパー11/25号より
在留邦人向けの週刊日本語フリーペーパー11/25号より
社会監視システムが強化され浸透する一方でたくましく営業中。「毎日違うコスプレでお出迎え」「誘惑的な制服」「セクシーなチャイナドレス」「毎週金曜日は学生服DAY!」などキャッチフレーズが並ぶ。
「4年以上もまともに(出張に)来れなかった分、半年は業績にプラスの影響があると思います。飲み代はほぼ経費で落とすわけですが、日系企業はどこも渋くなってきているようです。とはいえ円安です。ひと晩で1人4~5万円以上はかかるKTV(個室カラオケ)は高すぎて、1万円以内で収まるガールズバーに業態を乗り換えた店も少なくありません」(上海のフリーペーパー営業担当者)ましてや、日本にある昔ながらの“中国スナック”は最近、中国人富裕層のインバウンド客狙いに宗旨替えしたようで、貧乏サラリーマンは相手にされなくなった。日本側にとって、中国ビザ免除再開は、若くて綺麗な中国人ホステスと戯れる絶好のチャンス、といったところか。
前出した、本帰国直訴予定の中堅商社勤務の40代男性はこう呆れる。
「出張が決まった日本の上司から『そういう費用は日本で負担するから』とメッセージが入りました。しばらくご無沙汰だったWECHAT(微信/中国版LINE)経由。『旧正月前に視察をしておきたい』と慌てているようですが、ホステスの連絡先満載の中国専用アプリを再開してもう遊ぶ気満々ですよ」
「しばらく行けなかった」と思っている日本側と「そもそも迷惑」と思っている中国側。アテンドされる側とする側。お互いの溝は埋まらない。
取材・文/ROADSIDERS 路邊社