フリーアナウンサーや俳優、コラムニストとして活躍する宇垣美里。2019年にTBSを退社し、現在はラジオパーソナリティ、文筆業、俳優など様々なジャンルに挑戦している。TBS時代には「闇キャラ」などと批判されたこともあるが、果たして今の彼女は過去の自分をどう思うのか…。
宇垣美里「私には私の地獄がある」発言の真意は…
ラジオ番組、コラム連載などの文筆業、そして演技――。
フリーアナウンサー・俳優の宇垣美里が、幅広いジャンルで活躍を見せている。
宇垣といえば、2019年まで在籍したTBS(アナウンサー)時代には「あざとい」などとネット上で言われることもあった。
18年の夏には、レギュラー出演していた『サンデージャポン』で「私には私の地獄があるし、あなたにはあなたの人生の地獄があるのだから」と発言し、「闇キャラを演じている」との批判されたことも。
それから7年。当時はどのような思いがあったのかを聞いた。
――「私には私の地獄がある」という発言は、どんな気持ちから発したんですか?
「番組で“1人焼肉”のロケをした際に、“1人って楽だよね”というようなことを私が話したら、翌週のロケでディレクターさんから、
“ネット上で《女子アナがそんなこと言って》《恵まれた環境にいる人が何を言っているんだ》といった反応があった”
と言われたんです。
それに対して『その人それぞれに地獄がある。私には私の地獄があるし、あなたにはあなたの人生の地獄があるのだから』と返したんですよ。
私としては別に闇キャラを演じたとかではなく、至極当たり前のことを言ったつもりでしたし、今もそう思っています。
私が恵まれているかはさておき、恵まれている人にだって悩みはきっとあるはずで、それぞれの人の数だけ悩みはあるんだから、という気持ちからの発言だったと思います」
――その発言が、ネット上で話題になった時、何か思いましたか?
私、SNSはあまり見ないんです。
『私には私の地獄がある』という考え方は、表現は違っても本や映画などで何度となく訴えられているもののように思いますが、それをテレビという媒体でキャッチーなワードにしたことによって、反応された方がいたのかもしれません。
私は(考えや気持ちを)言葉にすることがすごく好きですし、強いセンテンスにすることは、思った以上に遠いところまで届ける力になるんだなと思いました」
感じたことや心の動きを言語化することが好きだと言う宇垣は、現在では雑誌やWeb媒体で5本の連載を抱えるまでに至った。そんな彼女は、TBSを退社して5年が経ち、現在は33歳。キャリアを重ねた宇垣は過去と現在の自分を照らし合わせ何を考えるのか。
「TBS時代とフリーになってから、それぞれ1冊ずつエッセイ本を出しているんですけど、2冊目をまとめる際に1冊目を読み返してみたら、“尖りきってるな”ってすごくびっくりしたんです(笑)。
何にそんなにキリキリしてるんだろうって思うぐらいに頑なだし、ファイター。その頃と比べると今は丸くなったと思います(笑)」
丸くなったと自身を語る宇垣は「それはある種のあきらめ」と話す。
「当時あんなに怒っていたことでも、今だったら“そんなもんでしょ”って聞き流すし、あきらめることもあります。
シンプルに“ただ失礼なだけ”の人には、“もう注意する必要もないわ”みたいに思いますしね。
ちょっと違和感を覚えてもある程度なら聞き流すし、“ここで私がピエロになって物事が収まるならそうしましょう”と思えるようになりました。
若かった頃、私が怒るたびに、妹から“すごいパワーだね”って言われていました。
“放っておけば、その人はいつか痛い目に遭うし、あなたが教えなくても、もっと偉い人がそれに気づいて怒ってくれる”って。
当時の私は、正しくないと感じたことは指摘しなきゃいけないと思っていましたが、どんなに誠心誠意伝えても、“通じない”相手はいることを知りました。それは他者に対するあきらめなのかなとも思います。」
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「その程度で傷つきもしない」
過去の自身について笑顔を浮かべながら振り返る宇垣。
そんな彼女に「逆にあきらめることができないことはありますか?」と問うと、真剣な表情で答えが返ってきた。
「後に続く人が嫌な思いをする可能性があることに対してはあきらめたくないと思っています。
誰かの言葉で私が傷つくのはいい。もはやその程度で傷つきもしない。でもその人の言葉が今後、他の人も傷つける可能性があるなら、私が止めたいな、と思うんです。
女性だけでなく男性も含めて、私の後に続く人たちには傷つくような経験をしてほしくないんです」
――年齢を重ねたことで感じることはありますか?
「最近は、“ちょっと体力が…“っていう問題はもちろんあります(笑)。
でも一番は、“若くない女性になれる“ということ。
これまで、若い女性であるからいただいたチャンスがあるし、お目こぼししていただいたところもあったでしょう。もちろんありがたいと思うと同時に、それは“若い女性“だからであって、“私”だからではないんですよね」
――自分よりも若い世代の方に何か伝えるとしたら、どんなメッセージを送りたいですか?
「“大丈夫だよ“って言ってあげたいですね。あなたが頑張っていることを見てくれている人は絶対いるからって。
例えばメイク、服装、言語や言動もそう。誰かに嫌われないために自分を押し殺すことほど悲しいことはないと私は思っていて。自分が好きな自分でいられるように努力することは、大切にしてほしい。それは年齢限らず全ての人に大切にしてほしいことだなって思います」
自身の思いをつらぬきつつ、後輩の手本でありたいと考える宇垣。「後輩の鑑になっているのでは?」と尋ねると、「鑑になんてなれないですよ」と言いながら、言葉をつづけた。
「王道な道はたくさんの先輩たちが整えてくださった。私は、“こういう女性がいたっていんだ”と思ってもらえるような、わたしなりの道を整えていけたらなって思っています」
インタビューを通じて感じたのは、彼女が「私は私らしく生きたい」という意志と、「後に続く世代がつらい思いをしないでほしい」という願いをもって活動しているということ。そんな彼女の姿に、多くの人が勇気づけられるはずだ。
取材・文/羽田健治
撮影/東京祐