佐野勇斗が語る、映画『六嘘』の“表と裏”「新しい自分を見せられるいい機会」【『六人の嘘つきな大学生』公開記念インタビュー連載】

浅倉秋成による同名小説を映画化した『六人の嘘つきな大学生』が11月22日(金)より公開となる。成長著しいエンタテインメント企業の新卒採用に参加した6人の就活生たちの “裏の顔”が巧みに暴かれていく密室サスペンス要素と、それぞれの人生と向き合っていく青春ミステリー要素を掛け合わせた本作。6人の就活生を演じたのは、人気と実力を兼ね備えた若手俳優たちだ。MOVIE WALKER PRESSでは、主人公である嶌衣織役の浜辺美波、波多野祥吾役の赤楚衛二、九賀蒼太役の佐野勇斗、矢代つばさ役の山下美月、森久保公彦役の倉悠貴、袴田亮役の西垣匠のリレーインタビューを実施。

劇中では、“1か月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをする”という最終選考に向けて交流を深めていく6人だったが、本番直前に課題が変更され、たった一つの内定の席を奪い合うライバルとなってしまう。そして迎えた試験当日、会場で何者かによる告発文が見つかり、それぞれが抱える“嘘と罪”が明らかになる異常事態となる。疑心暗鬼になる6人だったが、やがて1人の犯人と、1人の合格者が出ることに。しかし物語はそれで終わらず、最終選考から8年後のある日、衝撃の事実が明らかになる。

6人に極上のミステリーサスペンスである本作の見どころ、映画の舞台裏をたっぷり語ってもらうことで、本作の“表と裏の魅力”に迫っていく。第4回は、慶應義塾大学総合政策学部の学生で、「フェア(公平)」を愛し、冷静かつ的確にリーダーシップをとる九賀蒼太を演じる佐野勇斗。

※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。

■「新しい自分を見せられるいい機会だし、芝居を頑張らなきゃいけないなと思いました」

――まずは本作の脚本を最初に読まれた時の率直な感想と、どこにおもしろさややり甲斐を感じられたのか教えてください。

「脚本を読んだ最初の印象は、“自分がこの役をやるのか?”ということでした(笑)。その次に、映画の短い尺の中で、ある行動を起こす九賀の動機や、そうなった彼の感情の動きを表現するのはすごく難しいだろうなと思ったのを覚えています」


リーダーの素質を持ち、常に冷静な九賀蒼太を演じた佐野勇斗 / [c]2024「六人の嘘つきな大学生」製作委員会

――本作は6人全員の“表の顔”と“裏の顔”が見え隠れするところが大きな見どころですが、どんな役作りを意識されたのでしょう。現場にはどのように臨みました?

「会議室でのシーンが半分以上だったので、撮影に入る前に綿密にリハーサルをしました。でも、実際のセットを使って、動きやセリフを言う場所も決めていくやり方だったので、まるで舞台の稽古をしている感覚に近くて。そういうリハーサルは初めての経験でしたね」

――そして、今回演じられた九賀蒼太は最終ディスカッションで起こる出来事の最重要キャラクターだったわけですが、この役でオファーされたことについてはどう思いました?

「こういう役はやったことがなかったので、ちょっとうれしかったです。ファンの方からも『犯人役や事件を起こすような役をやって欲しい』ってすごく言われていたので、そういう一面があるんでしょうね…いや、ないですよ(笑)!でも、新しい自分を見せられるいい機会だし、芝居を頑張らなきゃいけないなと思いました」


【写真を見る】佐野勇斗が見せる“裏の顔”…?含みのある笑顔を撮りおろし! / 撮影/宮崎健太郎 スタイリング/伊藤省吾(sitor) ヘアメイク/望月光(ONTASTE)

――そんな九賀を演じるにあたって意識したことは?

「全シーン、全部のカットでいろいろな解釈ができるような芝居を心がけました。九賀はすべてわかっているわけですけど、初めからずっと悩んだふりをしていて。でも、よく見ると“目の奥が怪しくない?”みたいなことは意識していました。ただ、正直、“やり過ぎたかな”と思うところもあったし、そのサジ加減は難しかったですね(笑)」

――九賀の自分の告発文が公開された時はどんなお芝居をしました?

「そこも計算通りと言うか、怪しまれないように…」

――わりと平静を装っている感じですか?

「いや、逆です。告発文については、実際はなんとも思ってないんですけど、焦っているように見せなきゃいけなくて。その時の感情や思っていることとは逆の芝居をしなければいけないので、そこが難しかったです」


このなかに真犯人が?6人の表情の演技にも注目 / [c]2024「六人の嘘つきな大学生」製作委員会

――一目置かれる頭のいいエリートという役柄ですし、人を騙したり欺いたりするお芝居も、演じる側としては楽しいところもあるんじゃないですか?

「ないです(きっぱり!)。全然ないです。本当に難しい!自分で言うのもですが、僕、けっこう正直な人間なので…思っていることと逆のことをするのが本当に大変で、やっている時はずっと悩んでいました」

■「すごく相性のいい6人だったと思います」


『六人の嘘つきな大学生』は公開中 / [c]2024「六人の嘘つきな大学生」製作委員会
――本作のように、同世代の俳優が結集してお芝居をする撮影も珍しいと思いますが、共演されて刺激を受けた点があれば教えてください。

「芝居について話し合うことはそんなに多くはなかったんですけど、みんな、役者としてのプライドがあるし、自分のプランをしっかり考えて現場に臨んでいるのが伝わってきたので、それが刺激的でした。6人それぞれに見せ場があるんですけど、その時は全員空気が変わったし、それぞれの覇気を感じたから、みんなでお互いのスイッチを入れ合っていたような気がします」

――撮影の合間はどんな距離感で過ごされていたんですか?

「6人が初めて自己紹介し合う、ファミレスのシーンがクランクインだったんですけど、その時はお互いに探り合っているような感じでした。でも、(波多野を演じた)赤楚(衛二)くんの存在が大きかったのかなと思います。わずか1か月半ぐらいの撮影期間だったのに、最終ディスカッションの撮影の時にはみんなめちゃくちゃ仲が良くなっていて。6人でご飯も食べに行ったし、夏だったので、撮影の終盤には花火大会も一緒に見たんですけど、気を遣うこともなく、自然にツッコミを入れたり、ボケたりできる。久しぶりに会ってもすぐに打ち解けられる、すごく相性のいい6人だったと思います」

――いま、「赤楚さんの存在が大きかった」と言われましたが、赤楚さんがどんな影響を?

「赤楚くんがムードメーカーだったんです。最年長だし、先輩なんですけど、赤楚くんが最初にみんなに『タメ口にしようよ』と言ってくれて。だから僕も、先輩にタメ口なんてほとんど使ったことがないんですけど、赤楚くんのことは『衛二』って名前で呼ばせてもらいましたし、いまでも頻繁に連絡を取らせてもらっています。赤楚くんが先輩風をふかせたり、堅い人だったら、こんなにみんな仲良くなっていなかったでしょうね」


現場のムードメーカーだった波多野祥吾を演じた赤楚衛二 / [c]2024「六人の嘘つきな大学生」製作委員会

――その流れで、6名の中から、どなたかのあまり知られていない魅力や意外な素顔を告発してください。

「会う前と一番印象が変わったのは、(嶌を演じた)浜辺(美波)さんかもしれないな。すごく喋るし、けっこうムードメーカーかもしれない。赤楚くんもそうだけど、6人の中心にいて、場の空気を作ってくれましたからね。しかも、彼女は自分の話をするわけじゃないんです。自分が、自分がっていうタイプじゃなくて、誰かに質問を振ったり、僕のことをいじったりとかして、その人のことを目立たせる。そこが浜辺さんのスゴいところです。それでいて、めちゃくちゃ負けず嫌いで、芝居に関しても一見“別になにも考えていない”という雰囲気をまとっているのに、実は“絶対にやってやる!”と思っているタイプなんじゃないかな。芯があるし、そこが意外でした。年下ですけど、尊敬しています」

――自分の見せ場の撮影の時は皆さん緊張して、前日よく眠れなかった人もいたみたいですけど、佐野さんはどうでした?

「確かに、“今日はこの人を中心に撮っていく”というやり方だったので、僕も自分の番の時はちょっと緊張しました。僕の場合は、『●●は僕だ』って告白するところですね。あそこは大芝居をしなければいけないし、セリフも長いので、すごく緊張したし、クランクインの時からあのシーンのことをずっと考えていました」


一番印象が変わったのは、嶌衣織を演じた浜辺美波だったそう / [c]2024「六人の嘘つきな大学生」製作委員会

――8年後のシーンは、九賀の最大の見せ場ですものね。

「でも、あの一連のシーンは本当に大変で。モノローグも全部覚えなければいけなかったし、最初に言ったように、九賀の行動がすごく特殊な動機によるものだったので、説得力を持たせるのが難しかった。言ってしまえば、九賀にとっては自分の行動で傷つくのは誰でもよかったんですよ。社会や世の中に対する怒りをどこかにぶつけたかっただけだと思うので、九賀はこの5人が相手じゃなくても、たぶん実行していたに違いない。大人に見えて、すごく幼稚だなと僕は思いましたけど、同じように行き場のない感情を抱いてもがいている若者も多いような気がするので、そういう人たちは、九賀の気持ちが少しわかるかもしれませんね」

――波多野が撮影した元カノの映像を九賀が観るシーンでは、佐野さんのアドリブが炸裂したそうですね。

「元カノの言葉を聞いて泣くところですね。でも、試写で観た時も泣いたことは思い出しましたが、芝居に夢中だったので、あれがアドリブだということは全然忘れていました」

■「運を掴むのも自分の日々の小さなことの積み重ねだと思うんです」

――ちなみに、佐野さんがもし就職活動をすることになったら、どのように自己PRをしますか?

「『めちゃくちゃまじめ』って周りの人からよく言われるし、自分でも正直そう思うけれど、まじめの中にも柔軟性と遊び心があると僕自身は思っていて。そのことをちゃんと主張したうえで、『僕のことを採らないと、あとでたぶん後悔しますよ』って言います。どの業界でも絶対に受かる自信があります!めっちゃ強気ですね(笑)」


佐野は、自他ともに認める“まじめ”な人間だという / 撮影/宮崎健太郎

――では、エントリーシートの特技や長所を書く欄にはなんと書きますか?

「そこも『まじめで柔軟性がある。一つのことをやり遂げる気持ちが強い』と書くと思います」

――これまでの人生でもこれは絶対に勝ち取りたいと思って挑んだ瞬間が何度かあったと思いますが、なにか印象に残っているエピソードはありますか?

「学生時代は学級委員を毎年やっていたし、生徒会の仕事もやっていて。勉強もスポーツも両立できたいので、自分でも本当に器用だなと思っていたんです。だから高校生の時は勉強もけっこうサボり気味だったんですけど、受験の時に初めて挫折を味わって。これはヤバい!と思って、そこから頑張ったので、努力することや一つのことに打ち込む姿勢みたいなものはその時に学んだかもしれないです」

――勝負の時の前日や当日に、願掛けとか、必ずやっていることはありますか?

「うーん、なんだろう?…あっ、これ初めて言うんですけど、ちょっと恥ずかしいな(笑)。いや、学生時代はやってなかったんですよ。でも、いまは例えば泣きの芝居や、それこそ、今回の九賀の大事な芝居の前日などは、シャワーを浴びながら役を自分の中に入れるようにしていて。瞑想と言うか、その役になる時間が実はあるんです。役者を10年やってきて、初めて言いました。恥ずかしいです(笑)」


6人の大学生たちに降りかかった、過酷な試練の結末とは / [c]2024「六人の嘘つきな大学生」製作委員会
――貴重なお話、ありがとうございます!最後に、佐野さんから就職活動をする方々にメッセージをお願いします。

「就活はしたことがないけれど、僕らが経験するオーディションも就活に似ていて。僕らも理由がわからないまま落とされることも多いし、同世代もいっぱい仕事をしているこの業界で落とされ続けると、自分自身を否定されたような気持ちになったり、将来に対する焦りや不安も感じるようになりますからね。でも、運を掴むのも自分の日々の小さなことの積み重ねだと思うんです。人に優しくするとか、“受かりたい、受かりたい”って自分のことばかり考えるのではなく、会社側の気持ちにも目を向けたり、視点をひとつ変えるだけで、運が回って、それがいい結果に繋がることもありますから。なので、あまり負のスパイラルに入らず、ポジティブに“これもいい経験だ”と思って楽しみながらやることをオススメします。そうすれば、自ずと結果はついてくる。大変だと思うけれど、頑張ってください」

取材・文/イソガイマサト