企業だけでは足りない。社会全体でスポーツ支援を!
前述のようにスポーツ支援が社会全体へ与える影響力は高いにも関わらず、その支援の規模は“最適”ではないと佐々木氏は語る。
要は、社会全体がもっと豊かになるためには、企業のスポーツ支援だけでは足りていない、ということだ。
「企業のスポーツ支援はお金がかかりますが、チームが勝利すれば従業員のモラールが上がって生産性が上がり、収入も増える。つまり、企業のスポーツ支援は、その企業だけで考えれば十分で“最適”です。しかし、社会全体で考えると、まだまだ足りない、もっと支援すればもっと社会が良くなる余地があるという意味で、“最適”とは言えません。企業が考えている“最適”と社会が要求する“最適”の規模には乖離があるということです」
しかも、1990年代のバブル経済の崩壊、最近ではコロナ禍によるさまざまなスポーツイベントの自粛などによって、多くの企業がスポーツ支援から撤退する動きが出ている。チームの運営には少なからず経済的負担があるからだ。
「企業スポーツの休廃部の要因を調べた研究によると、経済危機による業績悪化が大きな要因となったことが報告されています。スポーツ運営は真っ先に費用削減の対象になるので、企業の業績の影響を受けやすいのです。廃部したクラブは地域密着型のチームとして新たに生まれ変わるケースも多いですが、それでも企業による支援がなければ活動はできません。企業の継続的なサポートは期待したいですが、すべてを企業に頼るのはそろそろ限界であることに気づくべきでしょう。社会全体にスポーツの良い影響を広げるには企業だけに任せるのではなく、政府・行政・自治体と教育機関、それに地域のコミュニティを加え、三位一体でスポーツ支援に積極的に関与する必要があると思います」
スポーツ支援はなぜ必要か? この表題の答えとして、今回の経済学的な観点は「スポーツには社会を豊かにする力がある」ことを教えてくれた。スポーツの健康効果は、大きな社会課題である、超高齢化社会における介護費用の抑制にも繋がる。そういった意味でも、社会全体でスポーツ支援をすることはとても重要であるようだ。
text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
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