今年8月、突然の廃業を発表した日本のラブドールメーカー「オリエント工業」(東京都台東区)。その発表に多くの愛好者たちは悲嘆に暮れたが、創業者の土屋日出夫氏の意志を引き継ぎ、さらに事業発展させるべく立ち上がった男がいる。それが新社長の岡本祐也氏だ。事業承継の経緯と今後の展望について話を聞いた。
海外展開を視野に事業承継
オリエント工業は1977年に創業者の土屋氏が特殊ボディメーカーとして立ち上げた会社だ。当時の性玩具があまりに粗悪だったことから「性処理だけが目的の単なる性玩具ではなく“心の安らぎ”を得られる女性像の開発を」と始めたのが、ラブドールの開発だった。
だが、2019年頃から10万円未満の安価で粗悪な中国製ラブドールがいくつも登場したことにより、80万円から100万円ほどするオリエント工業のラブドールは大打撃を受けた。
中国製ラブドールにどう対抗するのか。岡本氏に“シン”オリエント工業の展望も含めて聞いた。
――8月に一度廃業を発表されましたが、どんな経緯があったのでしょうか。
岡本祐也氏(以下、同) もともと広告代理店を経営していた知人がオリエント工業さんとお付き合いがありました。そしてオリエント工業さんが中国製の猛襲により、毎年赤字を抱えながらがんばっていたことを聞いていたのです。そして、今年に入りさすがに心身ともに厳しくなったとは伺っていました。
でも、私も知人もどうしてもこの事業を撤退させてしまうのは惜しいと感じていました。
とはいえ、ひとりでは厳しいと考えていた知人が、海外ECサイトを手掛ける私に声をかけてくれたのです。
もともと、私もオリエント工業さんの商品の素晴らしさは知っていました。知人と同じで、私もこの事業撤退を見過ごすには惜しすぎると感じたのです。
それに、オリエント工業は上野のショールームにいらっしゃるお客さま中心の商売で、海外進出はしていなかった。それではもったいなさすぎる。
これはECサイトで海外展開すべき商品だと考え、その熱意を先代に伝えたら「それはいい!」と賛成してくれたのです。
――事業承継ということになるわけですか。
そうです。先代はいったん、自分のタイミングで「廃業」の発表をするとのことでしたので、それに前後する形で私たちも急ピッチで事業承継のための準備をしていました。
11月1日には事業を再開し、11月11日には上野のショールームを再開しました。
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いずれはAIやロボットといった分野への進出も
――事業承継にあたり、先代から何か要望はあったのでしょうか。
先代からは社員の雇用を継続してほしいということと、商品のこだわりとして開発に力を入れた特別なシリコンも継続して使ってほしいと言われています。
工場には東京藝術大学卒の社員が3人ほどおり、みんなものづくりが好きです。造形はまさに一流です。
――承継しながらも、新しい展開はお考えなのでしょうか。
そうですね。軽量化できるよう工夫したいと考えています。現在の商品は30キロほどあり、高齢者にはかなり重い。それと同時に、品質を変えずに価格帯を下げる改良もできたらと。
また、なんと言っても「ラブドール屋」という枠に収まらないように、企業としての価値を高めていきたいと考えています。
――どのように高めていくのでしょうか。
現在でもオリエント工業のラブドールに女性のファンは多くいらっしゃいますが、より広い層のニーズに応える商品開発をしていきたいと思うのです。
先代が築いた「心の安らぎを得られる女性像の開発」はそのままに、「球体関節人形」という10センチから70センチほどのドールの開発も視野に入れています。
着せ替え人形として男女問わず広い年齢層の方にオリエント工業の技術を広めたいと思います。
それと福祉方面ですね。介護用として高齢者のそばに置いて安らぎを与えられるような。あとはなんと言っても、テスラやホンダなども開発に乗り出しているAIやロボットといった分野への進出も考えています。
――テスラやホンダなどが開発するロボットは、二足歩行の“ザ・ロボット”って感じですけれども、オリエント工業が作るとしたら?
そこはやはり、より親近感のある、安らぎを得られるような造形にしたいですね。
骨組みが剥き出しの状態ではなく、やはりオリエント工業が開発に心血を注いだシリコン素材の人型ロボットを開発できたらと思います。