サウサンプトンの菅原由勢は、自身とチームが置かれた厳しい現状を理解し、苦しさと楽しさの両方を実感しながらプレミアリーグのデビューシーズンで奮闘を続けている。
思い返せばわずか18か月前。当時オランダのAZに所属していた菅原は、ヨーロッパカンファレンスリーグでイングランドを訪れていた。1-2で敗れたウェストハム戦にフル出場した後の囲み取材では、次のように話していた。
「ゲームの進め方が相手のほうが1枚も2枚も上手に感じた。中身を見ればセットプレー2回で2失点だけど、それが強さ、違いだと感じました。強度も、最後を見れば分かりますが、僕らはフォワードが前に一人残ってあとは全員で守って。カウンターをしようとしても追い越せる選手がいない。逆に疲れ切っている中でも相手は走っていた。強度の違いはかなり感じましたね。レベルの高い相手とやれるのは、僕自身楽しい。楽しい90分だったし、こういう舞台(プレミアリーグ)に来たいです」
そして欧州に渡って6シーズン目となった今季。ついにその言葉を現実のものとして、憧れの舞台にたどり着いた。しかしながら、イングランドのサウスコーストで始まったプレミア挑戦は、順風満帆からはほぼ遠いのが現状だ。ここまで13節までを終えて、挙げた勝利は一つのみ。総勝点数はわずか「5」で、プレーオフを制して2季ぶりにイングランドのトップリーグに戻ってきたサウサンプトンは、最下位に低迷し続けている。
そんななか菅原は、開幕戦から右ウィングバックとしてスターティングメンバーに名を連ね、第3節のブレントフォード戦では今季のチーム初得点、自身にとってもプレミア初ゴールとなる一撃を左足で鮮やかに沈めた。ポゼッションサッカーを志向し、攻撃重視の強気なラッセル・マーティン監督のチームにおいて、背番号16は得意とするオフェンス面での能力の高さが重宝された。
一方で、指揮官がこだわるサッカーは、守備面で大きなリスクを伴うハイラインがベースとなる。昨季チャンピオンシップ(実質2部)で成功したハイリスク・ハイリターンのサッカーを継続しているわけだが、ここまでのセインツ(サウサンプトンの愛称)の総得点数はリーグ最下位の10、総失点数は同ワースト3位の25である。一試合平均の得点数は0.77で、逆に失点数は1.92となっている。
開幕直後からチームの守備は不安定な状態が続き、その一役を担う菅原も試合を重ねるごとにミスが目立つようになり、失点につながる直接的なプレーも散見されるようになった。例えば7節のアーセナル戦。決勝ゴールの場面では、対処すべきガブリエル・マルティネッリをまるでノーマークで残して簡単に失点を許し、さらにブカヨ・サカのダメ押し点の際には、ボックス内でのコントロールミス。痛恨の失敗をしている。
それでも怪我から復帰した10節のエバートン戦では、終盤から途中出場して、初アシストをマーク。チームの今季リーグ戦初勝利に貢献してみせた。しかし12節のリバプール戦では、再び終盤にピッチに送り込まれたものの、ボックス内で不用意なハンドを取られてPKを献上。ここでも決勝点を許して、守備面での甘さが見られた。
それは5戦ぶりの先発復帰となったブライトン戦も同様だった。攻撃面では要所で好プレーを見せ、チャンスメイクに成功。1点を追いかける前半終盤には、立て続けに菅原の鋭いクロスから決定機をつくり出していた。
試合後の取材で、筆者が前半のサウサンプトンの攻撃が右からばかり始まっていたことに触れると、菅原は「僕が出ている以上は、そこの攻撃のところ、関わる回数を増やしていかなくてはならない」と振り返った。
「関わる回数を増やしていこうって思いながらプレーしましたし、その中でクロスも何本も上げられた。ゴール前に顔を出す、関わる回数は僕自身の強みは出せていたと思う」
翻って守備面では、この日も苦戦を強いられた。序盤の7分には、相手のカウンター時に自陣でボールを受けた直後に三笘にボールを奪われて、あわや失点の場面が見られた。
こういったケアレスなシーンが度々見られることについて、菅原は「ああいうミスっていうのは試合中起きるんで。そういった中で、どう起きないようにどうするかっていうのを考えなきゃいけないし。 起きた後にどう対処していくかっていうことの連続だと思うんで」と話したが、その一方でプレミアの“怖さ”、さらに自身の守備のブラッシュアップの必要性についても理解していると加えた。
「でもそういったところのミスをプレミアリーグのチームは許してくれない。開幕戦の相手が退場してからの0―1もそうだったし。いろんな試合でも、ボールを握ってるにもかかわらず先にチープな失点をしてしまって、そこから試合内容が変わったりっていうのも、やっぱり僕ら自身は経験がある。そういうのをしっかり生かしていかなきゃいけないと思うし。僕自身も生かしていかなきゃいけない、学ばなきゃいけないとは思う。でも、やっぱりそういう1つのミスが 勝負に関わるというか、ほんとに勝つか負けるか、そこでポイントが取れるか取れないかっていう致命的なものに繋がってくるのはプレミアのレベルの高さだと思う」
さらにブライトン戦の29分に、三笘にマークを外されて失点を許した場面についても、「もっと自分が薫くんに対してコンタクトをしておかなきゃいけなかった」と反省している。
【動画】菅原を翻弄!三笘の豪快なダイビングヘッド弾
「あの失点がなければ1-0で勝ってたわけなんで、もっともっと自分に対しての課題を突きつけられたと思う。そしてそのチャンスをものにしていくっていうブライトンの強さ、薫くんの選手としての質の高さから、やっぱり僕自身まだまだ改善しなきゃいけないし、そこを止めていかないとこのプレミアリーグでは生き残っていけないというのを実感した。本当に非常に自分自身まだまだ成長できるなという感じた試合でもある」
そして「こういう舞台でしっかり結果を残し続けている薫君にはやっぱり尊敬の念があるなと思います」と続けて、日本代表の先輩に敬意を表した。
それでは今後の菅原は、プレミアリーグという世界最高峰の場でどのように進化していくべきなのか。悩みながらも必死に前進をしようとする彼の理想形は、守備力をアップすると同時に、自身の最大の武器である攻撃でミスを相殺するスタイルだと考える。
「途中から入ってアシストした試合もあるし、ああいうところでゴール前で右サイドから脅威になっていくっていうのは、やっぱり自分の強みでもある。監督もそれは十分に分かってくれてるんで。だからこそ、ある程度攻撃は自由にやらせてもらってる分、やっぱり数字を残さないと。監督も考えるものは増えるだろうし」
「僕自身、クロスを上げた後のことは、正直、ほかの選手任せの部分はあるとはいえど、だったらもっといいクロスの質だったりとか、自分自身ボックスに入っていてシュートを打ち切ってゴールを決めるという、そういうところのね、もっと質のところはこだわれると思うし、もっともっと怖い選手になるには、もっともっとボックスの近くでプレーしなきゃいけないと思うので。僕自身まだまだ課題はたくさんあるなと思いますね」
念願叶って参戦できたトップリーグ。エールディビジと比較しても「毎試合、強度の高い相手、素晴らしい相手、トップの相手と対戦しなきゃいけない っていうところが、まず全て違うところかな」と感じている。
「オランダの時はリーグ戦っていうよりも、カップ戦にどちらかというとチームとしても重きを置いて試合はしてましたけど、やっぱりリーグ戦にこそ120パーセント以上の力を注がなければ、やっぱ勝てない相手しかいない」
「僕自身、マッチアップする相手も世界のトップ中のトップの選手で、誰がいつビッククラブに行ってもおかしくないような選手たちと毎試合僕はマッチアップしなきゃいけない。本当に神経を研ぎ澄まさなければいけないし、90分間においての集中力っていうところは本当に切らしちゃいけない戦いが続いてる。そういった中で、今日もそうですけど、まだまだ隙のある部分が僕自身にはある。そういったところをもっともっと突き詰めていかなきゃいけないし、逆にそういった弱みをもっと強みにするためにこういう舞台にチャレンジしてるわけなんで」
「もちろん、こういう舞台で経験できることがほんとに何よりも幸せなことだというのは僕自身感じながらプレーできてるので、あとはしっかり結果と内容を伴うように、個人的なパフォーマンスもそうですけど、やっていきたいなと思います」
チームが低迷するなかでは悠長なことは言っていられないが、それは承知の上だ。しかしチームが推し出すアタッキングフットボールは「相当組織化されてきている」と成長を実感している。それは敗れたものの健闘した首位リバプール戦、さらに惜しいところで逆転勝ちを逃したこの日のブライトン戦でも証明してみせた。
「チームとしては非常に収穫の多い試合が毎試合続いてるので、あとは結果につなげれば一番いいと思います」
まだシーズン3分の1を終えたばかり。果たして、菅原はチームとともに成長を続けて、残留に導くことができるのか。今後のパフォーマンスに注目が集まる。
取材・文●松澤浩三
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