サッカーは様々なことをコントロールする必要がある。期待値のコントロールはその中でも最も重要なものの1つだ。そのやり方次第ではプラスにもマイナスにも作用する。
前者の代表例は、昨シーズンのレアル・マドリーと今シーズンのバルセロナだ。昨シーズン開幕前、カリム・ベンゼマが去り、キリアン・エムバペが加入しなかったことはマドリーにとって大きな損失になると解釈されていた。おまけに守備ブロック全体に影響を及ぼす長期離脱者が続出。クラブはそれでも補強を見送った。
当時、マドリーに期待する声は少なかった。しかし終わってみれば、逆境をバネにしてラ・リーガとチャンピオンズリーグ(CL)の2冠を達成。サッカー面だけではなく、エモーショナルな部分でも答えを見つけた結果だった。
一方、うまくコントロールできなければ、期待値は時に鋭利なものへと変貌するという好例が、今シーズンのマドリーだ。故障者の復帰は戦力面で大きなプラスアルファをもたらすと解釈され、そのうえ別の惑星出身としか思えないエムバペが加入。すべてが容易になり、才能が努力を補ってくれると誰もが考えた。実際に言葉にしようがしまいが、ラ・リーガを悠々と闊歩し、CLでいつものように主人公感を出すマドリーを期待した。しかし、栄光を求めてプレーすることは、失敗を避けるためにプレーすることとは全く別物だ。
期待に胸を膨らませても、困難に備えることはできない。マドリーの場合も、不安や混乱、世論の獣のような咆哮といった不愉快な招待客がやってくるのに、バルサ戦とミラン戦の2度の悪い結果(0-4と1-3)で十分だった。サッカーは、ここ数シーズン、マドリーに与えた幸運の分け前をライバルに譲ることにした。なんてことはない。サッカーは常に気まぐれなものだからだ。
一方のバルサは、先述した通り今シーズンここまで期待値のコントロールがプラスに作用している。チームは弱点を抱え、それを補うためにラ・マシアに目を向け、プライド、犠牲精神、最大限の集中力に頼らざるを得なかった。しかしそれが功を奏した。
ハンジ・フリックが素晴らしい仕事をしているのは紛れもない事実だが、彼が見つけたのは、物事を容易にし、道を切り開くために努力を惜しまないイレブンだった。我々は期待値が低かった分、その頑張りを称えなければならない。
マドリーはここから巻き返しを期すにはあらゆる手段を尽くさなければならない。前述のバルサ戦とミラン戦は、疲労が混乱を招き惨敗を喫した。サッカーにおいて練習が教えてくれる大切なことの一つは、疲労はそれを上回る刺激によって克服することが可能ということだ。
つまりマドリーは刺激剤を探せばいい。ファンの支えやタイトルの獲得から、バロンドールなどの個人賞の受賞までいろいろある。あるいは期待に応えられないかもしれないという羞恥心、名誉を失うかもしれないという危機感も、肉体疲労やスタミナ切れ、その他あらゆるネガティブ感情に対抗する刺激剤として機能する。
そしてマドリーには巻き返しへのテコ入れとなる、とっておきの刺激剤がある。1902年のクラブ創設以来、錚々たる歴代選手の拠り所となってきた誇り高さを尊ぶ文化だ。
文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳●下村正幸
【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
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