「不法移民のままなら安く雇える」アメリカの総人口の3%・1100万人にも達する不法移民をめぐる人権尊重と自国本位のアンビバレント

今回の米大統領選で主な争点のひとつとなった不法移民問題。経済学者の大西広氏は選挙が迫った2024年9月にアメリカを視察。その際、移動時に乗車したバスが「不法移民の有無」のチェックを受け、この問題の深刻さを身をもって体感したという。

書籍『反米の選択 トランプ再来で増大する“従属”のコスト』より一部抜粋・再構成し、アメリカの不法移民問題について考える。

移動中のバスがチェックを受ける

トランプが「アメリカ・ファースト」を掲げ、言い換えると他国との対外関係で強い主張をするようになった論点のひとつとして、不法移民問題も重要である。

今回の選挙戦では、実のところ、共和党の候補者受諾演説以降の主要なテーマはやはり物価高や減税と並んで不法移民問題が挙げられていて、この深刻さの一端は私も24年9月の訪米で感じることができた。

訪問先はアリゾナとカリフォルニアに限られるが、不法移民の北上ルートにあたる砂漠の真ん中のチェックポイントで私の乗ったバスがチェックを受けたり、3箇所のメキシコ国境を通過したりで、この膨大な国境通過者の何%かがビザ期限を越えた後も滞在し続けるのだろうと思ったからである。

もちろん、これらの他、国境の川を越えて来る不法移民もいれば、自動車に隠れて入国する不法移民もおり、さらにはトンネルを掘って越えてくる不法移民もいる。

このトンネルの話は、アリゾナのユマという国境の町で現地の人から聞いた。ともかく、すでにアメリカには1100万人を超える不法移民が滞在し、それは総人口の3%を超えている。乗ったバスでも(もちろん本人に聞く訳にはいかないが)、街中でもそれらしきヒスパニックはいくらでもいた。

ただ、問題なのはこうした不法移民の滞在をおおっぴらげにサポートしている都市や集団がいる(!!)ということである。

不法移民も人間なので彼らを支援したいと思う民間人の気持ちもわかるが、「聖域都市(sanctuary city)※」と言われる相当数の自治体や州が公式に国境警備隊に協力しないとしているなどというのは日本では信じがたいことである。

アメリカには彼らを低賃金で雇う企業家がいくらでもいて、不法移民も入国さえすれば何とか生きていけるのであるが、それに民間慈善団体のサポートと民主党政権時に導入されたDACAという限定的な追放猶予措置が不法移民入国のさらなる誘因ともなっている。

トランプなど不法移民禁止派は不法移民が犯罪の温床となり、かつまた労働者の雇用を奪っているとするが、である。

※不法移民に対して寛容な政策を取っている都市、全米に約300あるとされている。

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雇う側の事情が反映される「聖域都市」

しかし、もしそうなら何故に民主党は彼らの滞在を許そうとしてきたのか。

その公式の理由は「人道支援」となっているが、不法移民の実態を丁寧にレポートした田原徳容氏の『ルポ不法移民とトランプの闘い』(光文社新書、2018年)を読めば、それによって利益を得る受け入れ側の意向が反映されていると深読みせざるを得ない。

田原氏自身はどちらかというと、移民受け入れに好意的であるが、それでも、インド人不法移民を低賃金で雇っているIT企業の例、テキサス州やネブラスカ州の農業や畜産業で働いた不法移民の例、ハリケーン・カトリーナからの復興で一気に人手不足となった折に人手が不法移民によって賄われたという例などがある。

実際、「聖域都市」と言われる都市の分布をウィキペディア英語版で調べると、一部に例外があっても、やはり全体として「雇う側」の事情が大きく反映されているようにしか見えない。

たとえば、「雇う側」が集中する西海岸とニューイングランド、シカゴのあるイリノイ州などが「聖域都市優遇州」となっている一方で、ほぼすべての南部諸州は「聖域都市禁止州」となっている。

ちなみにアメリカでは個人商店を含め「従業員募集中」との張り紙をいたるところで見ることができる。先のDACAという制度を使った滞在不法移民数はロサンゼルスだけですでに22万人、テキサスでも12万人に及んでいるという。