起業後に見えてきた、野球とビジネスの意外な共通点
――自社の経営に携わってみて、いかがですか?
杉谷:野球で得たノウハウがビジネスにも応用できることが分かりました。たとえば、シーズン終了間際になると、成績やチームの状況を振り返るのが習慣になっていたんです。全体的にスピードが足りていない、それならオフシーズン中はスピードトレーニングに注力しよう。といった具合に、プロセスを組み立ててからゴールを目指す。こうした課題との向き合い方は、ビジネスにも通じるものがあります。現状維持は後退と変わりません。野球もビジネスも前進あるのみ、です。
――ビジネス界のマナーにとまどいもあるのでは?
杉谷:ビジネスメールには苦戦させられましたね。丁寧な文章でメールを作成する機会も少なかったし、現役時代は言葉づかいの粗い人が多かったから(笑)。起業したばかりのころはメール一本送るのにも緊張していたくらいです。
――なんだか、デスクワークしている姿が想像できません。
杉谷:イベントや事業の企画を考えるのは好きなんですよ。企画書だって、いつもぶわ~っと書き上げちゃいます。たとえば「ゼビオジュニアベースボールフェスト2024」も私のアイデアが活かされています。主催のゼビオさん・U-9の子どもたち・弊社の三者にとって有意義な企画ってなんだろう――、とアイデアを練っている時間が楽しい。最終的に「ゼビオジュニアベースボールフェスト」では、野球教室が企画されました。ゼビオさんにとっては、自社製品の宣伝につながります。子どもたちは野球のノウハウが学べ、私も野球人口拡大をアピールできる。まさに、Win-Win-Winの関係です。
――経営や企画立案について、どこかで学ぶ機会があったのでしょうか?
杉谷:いやぁ、じつは一切ないんですよ。ビジネス書は読み漁りましたけど、もうほとんどが自己流です。経営をサポートしてくれるメンターのような人がいるわけでもありません。
ただ、栗山監督がよく口にしていた「自分本位になるな。人の話に耳を傾けろ」という言葉は折に触れて思い出します。相手が何を望んでいるのか、本音をどうやって胸の内から引き出すのか。これって、ビジネスでいうところの顧客ファーストの考え方。クライアントの思いを受け止めて、企画にまとめていくんです。
ビジネスの話とは少し離れますが、「夢対決 とんねるずのスポーツ王は俺だ!!」の「リアル野球BAN」(おもちゃの野球盤をリアルサイズで再現して、実際に試合を行う人気企画)への出演は、「野球人口を増やしたい」っていう私の思いに石橋貴明さんが耳を傾けてくれたことから始まったんです。番組を通じて野球の面白さを伝えようと気持ちが奮い立ったことを覚えています。
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前向きな気持ちがあれば、セカンドキャリアの壁も乗り越えられる
――今後、会社の規模を拡大していくことも考えていますか?
杉谷:無闇に会社を大きくするつもりはありません。何か明確な目的があって拡大する分にはいいと思うんですよ、けれども「規模拡大」が目的化してしまうのはちょっと違うよねって。然るべきタイミングが訪れる日まで、地道に事業を進めていきます。
何年先になるか見当もつきませんが、いつかスポーツ施設を開設したいんです。それで開設が具体的になってきたら、施設長や整備担当者、管理担当者などの人材が必要になってきますよね?でも、そこで突っ走って人員を一気に増やしちゃうのは危険すぎる。目標と現実の間にあるギャップを埋めるために、少しずつ規模を広げていく。それが企業の正しい在り方なんじゃないかなあ、と。
――ゆくゆくは、アスリートのセカンドキャリアの受け皿になる可能性もある?
杉谷:はい、いずれは「セカンドキャリアの支援」にも取り組んでいきたいです。引退した選手をただ受け入れるのではなく、挑戦することでしか得られない多幸感を共有できたらいいですね。いつか彼らが外に目標を見つけて「ZENSHIN CONNECT」を巣立っていく日が訪れたとしても、私は喜んで送り出しますよ。
――引退後の暮らしに不安を感じているアスリートも少なくないと思います。セカンドキャリアの壁を乗り越える秘訣を教えてください。
杉谷:前向きな姿勢を忘れないでください。人間は良くも悪くも感情にとらわれやすい生き物ですから。「ボールをエラーするな」ときつく言われたら、頭の中が「エラーしちゃだめだ!」でいっぱいになっちゃって、身体が強張ってしまいます。逆に「エラーなんて気にしなくていいよ」と伝えたら、きっとのびのびと野球を楽しめるようになると思いますよ。
考え方一つで、物事の見え方は変わってきます。朝目覚めたとき「だるいなあ」と考えるのか、それとも「今日はどんな出会いが待っているのだろう」と考えるのか。前者と後者とでは、一日の過ごし方もかなり変わってくるでしょう。前向きな一日をこつこつ重ねていけば、明るい方に道が拓けていきますよ。
(文:名嘉山直哉 写真:小池大介)