高齢化が進む日本、認知症と共に生きる高齢者の人口は今後も増加し、2025年には高齢者の5人に1人、国民の17人に1人が認知症になると予測されています。

介護の現場では、患者さんの暴言・暴力・介護拒否などの認知症患者さんに現れる行動や心理症状「BPSD(周辺症状)」に対応するための新たなケア方法が求められています。

こうした中、介護老人保健施設 国立あおやぎ苑では、認知症患者さんに対するケアの新たなアプローチとして、2023年12月から、音声を40Hzに変調した「ガンマ波サウンド」を聴くことができるテレビスピーカーを導入し、認知症患者さんの周辺症状に改善が見られたことが発表されました。

これは日本で初めての効果検証で、この結果をまとめたプレスセミナー「音が変えるケアの未来~認知症ケアの最前線~」が音の日を迎える12月6日を前に開催されました。

介護の現場や認知症ケアの今、また患者さんのご家族への想いなどを取材してきましたのでレポートします。

有効な治療方法が確立されていない認知症の周辺症状への新たなアプローチ

発表会ではまず、国立あおやぎ苑の施設長であり医師の武田 行広先生が、検証実施の背景について説明してくれました。

認知症には、記憶障害・集中障害・遂行機能障害などの中核症状と、周囲からの待遇などが原因となる患者さん本人のフラストレーションの爆発が起こり、暴言・暴力・介護拒否などに至る周辺症状(BPSD)の2つの症状が存在します。

中核症状に関しては経口薬や注射薬の投与などが行われていますが、周辺症状に対しては有効な治療方法がないというのが現状だそうです。

そこで認知症ケアの新しいアプローチとして注目したのが、米国・マサチューセッツ工科大学の研究チームによるマウス試験。

40Hz周期音の刺激を与えると、脳内にガンマ波が発生し、アルツハイマー病の指標であるアミロイドβタンパク質の低減や認知機能障害の改善が見られたとのこと。

ガンマ波は集中力が高まった時に生じ、認知症、特にアルツハイマー型認知症の患者さんは健常な人に比べて少ないと言われているそう。

40Hzの音刺激を受けることで、認知症患者さんのガンマ波が惹起され、認知症の中核症状が改善されればその周辺症状も改善されると推測し、検証に至ったそうです。

(広告の後にも続きます)

日本初の検証!ガンマ波サウンドを聴くことで認知症の周辺症状が改善

検証は国立あおやぎ苑に入所する認知症フロアの認知症患者さん25名と、一般病床の患者さん31名を対象に実施。

認知症患者さんが入所するフロアのホールのテレビの音声を40Hzに変調し「ガンマ波サウンド」に加工するテレビスピーカー「kikippa」を接続。毎日9時間聴いてもらいました。

同時に一般病床の患者さんには、通常のテレビの音を聴いてもらい、スピーカー設置前の2023年12月と設置後6か月の2024年6月に調査を実施。中核症状と周辺症状において、数値的あるいは臨床的に変化が生じるかを検証しました。

その結果「ガンマ波サウンド」を聴いた認知症患者さんは、中核症状には有意な変化は認められなかったものの、周辺症状には改善が認められたそう。

一方、一般病床の患者さんには、中核症状・周辺症状ともに有意な変化は認められなかったそうです。