アメリカのバイデン大統領は11月17日、ウクライナが米国製の長距離ミサイル「ATACMS」をロシア領内深くへの攻撃で使用することを許可した。するとロシアはこれに直接反発するかのように、新型の中距離弾道ミサイル「オレシュニク」で応戦。プーチン大統領は「米国が欧州で構築しているミサイル防衛システムは、これを迎撃することは不可能」、「量産は既に始まっている」などと誇った。
バイデン氏が長距離ミサイルの使用を認めたのは、ウクライナ東部クルスクへの北朝鮮軍投入を受けてのものだが、来年1月20日にいよいよトランプ氏が大統領に就任するのを前にして戦争は一層激化、正念場を迎えようとしている。
「米紙ワシントン・ポストは、トランプがさっそく11月7日にプーチン氏と電話会談を行ったと報じたものの、ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官はこれをきっぱり否定。真相は藪の中ですが、トランプ氏はすでに水面下で停戦に向けロシア側と交渉に入っていると見られています。そして実際、トランプ政権がスタートして停戦に動くとすれば、直近の領土の占領状態を許す許さないの具体的な落としどころが探られるでしょう。ですから、駆け込みで少しでも戦況を良くしておきたいというのが両国側の本音でしょう」(全国紙記者)
ただ、大国を相手に劣勢なウクライナに余裕はない。ゼレンスキー大統領は11月28日、「戦争税」の法案に署名した。さらに前日、アメリカ側は、ウクライナの徴兵年齢を現状の25歳以上から18歳以上に引き下げるように求めている。
「ウクライナが増税に踏み切ったのは戦時下で初のこと。それによると、所得税が1.5%から5%に引き上げられ、銀行に利益の50%、ノンバンクに25%と、金融機関にも負担を求めるものとなっています。増税は25年の国家予算の承認に伴ったものですが、同じくロシアで成立した国家予算と比べると、軍事関連費はウクライナでは国家予算の60%、ロシアは40%。ロシアは対ウクライナばかりの出費ではないことから、どれだけウクライナ側の負担が高まっているかが分かります」(同)
また、これと並行して注目されているのが、次期トランプ政権でのウクライナ・ロシア特使に指名されたキース・ケロッグ退役陸軍中将の動向だ。そのケロッグ氏は、4月に戦争に関する報告書を発表している。
「その内容をざっくり言ってしまえば、ウクライナへの戦後の軍事支援と引き換えに和平協定を結ばせ、さらに北大西洋条約機構(NATO)加盟を先送りさせるというもの。さらにウクライナにはロシアに奪われた国土の奪還を諦めさせ、ロシアに対しては制裁を部分的に緩和する。ただ、これは結局はロシアの侵攻を許すことになり、問題点は多い」(同)
独裁者による現状変更には屈しないという、ウクライナと西側諸国の原則とは全く乖離したものだが、アメリカ抜きに西側の支援は考えられず、この案が通ればプーチン氏は高笑い、トランプ氏はディールの成果を誇るという構図ということか。さりとて、増税で苦しみ、果ては18歳以上の若者も戦場に送らなければならない可能性が出てきたウクライナが選べる選択肢は少ない。
(猫間滋)