兵庫県議会全会一致の不信任決議案賛成を受けて失職しながらも、SNS空間の応援を受け、出直し選挙で逆転勝利し知事に返り咲いた斎藤元彦氏。だが、この選挙で目を引いた3つの問題について、場合によっては公職選挙法違反の可能性があると政府が表明した。知事選をめぐるゴタゴタには終わりが見えない。
デマ情報に苦しんだ稲村氏
政府の動きは、12月3日、選挙を所管する村上誠一郎総務相が辻本清美参院議員の質問に対して参院本会議で行なった答弁で鮮明になった。辻元氏は選挙に絡む“3つの行為”がそれぞれ公選法に抵触しないかを質した。
いずれも今回の兵庫知事選を念頭に置いた質問と受け止められている。
第1の行為についての質問は、SNSへの偽情報の投稿が違法になるか、との内容だ。村上総務相は「公職選挙法において『虚偽事項公表罪』が設けられていますが、SNSを含めインターネット上の発信なども公職選挙法の対象となるものであります」と答えた。
何が知事選で問題になったのか。斎藤氏に逆転負けした前尼崎市長・稲村和美氏の陣営関係者が話す。
「稲村氏はSNSから始まったデマ情報に苦しみました。代表的なものは、稲村氏が外国人参政権を認める政策を推進する、というものと、尼崎市長退任前に退職金の額をお手盛りで引き上げた、というものです。
このうち外国人参政権問題は国会での法改正が必要なので知事になってもできることはありませんが、稲村氏は練り歩きのときも『あんた、外国人参政権、やるんやろ』としばしば罵声を浴びました。
退職金問題も事実でないのに、斎藤氏が失職前の前期知事時代に自分の退職金を削減する措置を取ったことと対照的な“悪政”だとの文脈で広められました」
稲村陣営は、選挙期間中に応援団体のXのアカウントが2度にわたって凍結され、これは威力業務妨害に当たるとして被疑者不詳のまま兵庫県警に告訴状を出しているが、ネガキャンにも苦しんだというのだ。
村上氏の答弁は、特定の候補の宣伝ポイントを“盛る”だけでなく、特定の候補の支持を落とす目的でネットにフェイク情報を流すことは公選法違反だと明確にしている。
今回の知事選でのネットでのネガティブキャンペーンの是非が問われる事態がありそうだ。
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「折田氏は主体的ではなかった」と斎藤氏が主張する意味
辻元氏の第2の質問は、特定候補の応援動画の投稿を行なう人を有償で募集する行為は公選法違反となるか、というものだ。
これは、兵庫県西宮市のPR会社「merchu」の代表取締役、折田楓氏が自身のnoteに、斎藤陣営のSNS戦略を会社業務として行なった、と受け取れる内容を書いたことが背景にあるとみられる。
SNSによる選挙公報に報酬が支払われた場合、公選法の買収罪に該当する可能性があると、総務省は従来から表明しており、折田氏のnoteを読んだ神戸学院大の上脇博之教授らが斎藤氏を買収罪で、折田氏を被買収罪で、それぞれ刑事告発している。
斎藤氏の弁護人は「折田氏にはポスターのデザインなど、公選法で認められる範囲で報酬を支払ったが、折田氏はSNSでの選挙公報はボランティアで行ない、主体的な関与ではなかった」という趣旨の説明をしている。
折田氏はnoteの内容が問題化した後、違法と受け取れる部分の記述を次々と削除・改変しているが、メディアの取材要請に一度も応じていない。
さらに、知事選では他にも似たような騒ぎがあった。
「クラウドソーシングの募集サイトに、今回の候補者の一人の名を挙げ、この候補を応援する動画の台本ライターを募る広告が一時掲載され、ネット上で騒ぎになりました。すぐに削除されましたが、かなり危ういことをやってそうだと話題になりました」(兵庫県議会関係者)
村上総務相はこの問題に対し、「一般論」と断りながら次のように答えた。
「業者が主体的、裁量的に選挙運動の企画、立案を行ない、当該業者が選挙運動の主体と認められる場合には、当該業者に対しその対価として報酬を支給することは公職選挙法上の買収罪に該当する恐れがあります。
一方で業者が単に候補者の指示のもとにその具体的な指示内容に従って、一連の機械的な作業を行なったものと認める場合については、当該業者への報酬の支払いは買収罪に該当しないものと考えられます」
斎藤氏側は、折田氏のSNS広報への関与は主体的でなかったとたびたび強調しているが、それは村上氏が言うような解釈を念頭に置いてのものとみられる。
「しかし折田氏はnoteで、斎藤陣営のSNSの4つの公式アカウントを管理・監修し、広報の運用戦略立案の監修者だった、とも表明しています。
事実ならこれほどの重責をボランティアで担ったのかとの疑問もわきます。
刑事告発を受けた兵庫県警や神戸地検が捜査に入るなら、SNS絡みの折田氏の役割の範囲と、支払われた報酬の内容の判断が立件可否の最大のポイントになるでしょう」(在阪記者)