彼が小学生の頃からのつきあいです。
友人の息子は、1日3食カレーでもいいと言うほど、カレーが好きでした。
大学卒業後、就職はせず、下北沢の老舗カレー店でアルバイトを始めます。
貯金ができた後、旅に出掛けていきました。
カレーを目的に。
インドはもちろんのこと、アジアの国々を周り、
カレーだけではなく、スパイスについても学び、
ワーキングホリデー制度を利用してカナダで1年間、働いてから帰国します。
旅の途中で出会った日本人女性と結婚し、
子どもにも恵まれ、京都に住み始めました。
「スパイスカレーではなく、欧風カレーを出したいんですよね」
自分のカレー店を持つため物件を探したのですが、なかなか借りられません。
カレーは店舗に匂いが染みつくため貸主が嫌がるらしい。
そこにコロナ禍が到来し、壁はさらに高くなりました。
それでも彼は、じっくりチャンスの時期を待ったのです。
欧風カレーを煮込むように。
すると、昨年、京都に老舗カレー店の分店を出す話が舞い込んできたのです。
こうして今年の春、彼のカレーの挑戦は始まりました。
ゆったりした空間に、レコードジャケットが飾られ、店内のBGMはレコードの柔らかい音が流れます。
「カレーの味はもちろんですが、接客やその店が持つ空気感も大切にしたいんです」
言葉数が少ない彼だからこそ説得力がありました。<text:イシコ>