初代ウルトラマンのスーツアクターを務めた俳優、古谷敏さんが「中の人」目線で明確に「弱そう」と感じた怪獣がいるそうです。いったい、どの子なのでしょうか?
古谷敏の初めての回想録「ウルトラマンになった男」(小学館)
【画像】え…っ?古谷敏「表情もなくのっぺりとした印象」 こちらがそう言われれば「弱そう?」なウルトラ怪獣です
ピグモンやガヴァドンなら分かるけど
『ウルトラマン』には数多くの魅力的な怪獣、宇宙人が登場してくれました。成田亨さんがデザインされた「ウルトラ怪獣」たちは愛らしさと不気味さ、荒々しさと洗練さが両立しており、今なお令和の子供らをオモチャ屋さんに向かわせる引力を持っています。
さて、そんな『ウルトラマン』の怪獣のなかで、ウルトラマンの「中の人」、つまりはスーツアクターでもあった俳優の古谷敏さんが、明確に「弱そう」と思ったことを語っている怪獣がいるのです。
確かに画面を通じて観るのと、実際の撮影現場においてウルトラマン目線で対峙するのとでは、印象がまるで違うことでしょう。これは気になります。たとえば視聴者目線で「弱そう」な怪獣を予想するならば、第8話「怪獣無法地帯」で初登場した「ピグモン」、あるいは第15話「恐怖の宇宙線」の「ガヴァドン(A)」などが挙げられるでしょうか。
また第17話「無限へのパスポート」のブルトンも、もし初見で対峙すれば「これは怪獣なのか」という印象が残るかもしれません。しかし、残念ながら筆者が今挙げたような視聴者目線での予想はことごとく外れています。
古谷さんが明確に「弱そう」と感じた怪獣は、なんと……「ゼットン」なのです。
これはファンからすれば、なかなか衝撃的な証言です。ゼットンといえば、「最強」怪獣の代名詞でしょう。最終話である第39話「さらばウルトラマン」で唯一、ウルトラマンを倒し日本中の子供らを絶望に突き落としたあのゼットンが、「中の人」目線でいえば弱そうと感じたというのです。
これはいったい、どういうことなのでしょうか。2020年の「集英社新書プラス」における漫画家やくみつるさんと、古谷敏さんとの対談(司会・構成:佐々木徹さん)のなかで、古谷さんはゼットンの印象を
「今観ても、弱そうなんですよね、ゼットンは」
と、はっきりと証言しています。昆虫的なフォルムと無機質さが同居する、圧倒的な存在感を放つゼットンですが、ウルトラマンとして対峙したときの印象はまるで真逆です。レッドキングなどと比べ、表情もなくのっぺりとした印象だったということで、古谷さんは「どうして負けちゃったんだろう(笑)。」と振り返るのでした。
画面越しではゼットンの無表情さ、思考の読めなさこそ恐怖を喚起したものですが、現場感覚ではむしろ「?」という感じだったとのことです。
私たちは一度も、ウルトラマンの目線でゼットンと向き合ったことはありません。だからこそ、この証言は特撮ファンが長年かけ続けた色眼鏡を外してくれる貴重なものでした。これを踏まえて改めて第39話「さらばウルトラマン」を視聴すると、古谷さんの戸惑いが伝わってくるようです。またひとつ、『ウルトラマン』の楽しみ方を教えてもらいました。