年を重ねて骨が強くなる人はいない…骨粗しょう症になりやすい7大「生活習慣病」の恐怖

「年を取ると骨が弱くなる」と思っている人は少なくないのでは。確かに加齢とともに骨密度は低下するが、そもそも骨の健康は日々の生活習慣とも密接にかかわっている。骨がもろく折れやすくなる「骨粗しょう症」になりやすい生活習慣病とは?「骨粗しょう症」をはじめ骨代謝の診断・研究・治療の世界的権威が、100年健康に生きるための骨の真実を明かした『100年骨』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

糖尿病患者の骨が弱くなる理由

糖尿病などの生活習慣病になると、骨質劣化型の骨強度の低下を招き、骨折リスクが高まることがわかっています。ここでは、「生活習慣病骨折リスクに関する診療ガイド」(2019年版)より、骨折リスクに関連する生活習慣病の代表的なものを紹介します。

骨粗しょう症を予防し、いくつになっても元気な骨を維持するには、これらの生活習慣病にならないようにすること、なったとしても、それ以上進行しないよう努めることが大切です。

①糖尿病

糖尿病患者は糖尿病ではない人と比較して、背骨(椎体)を骨折するリスクが男性で4.73倍、女性で1.86倍にまで上昇することがわかっています。その原因は骨密度の低下ではなく、骨質の劣化にあります。

私たちの研究では、糖尿病のラットの骨は、骨質を劣化させるAGEsの代表的な物質であるペントシジンが増加していて、骨密度は正常であるにもかかわらず、骨強度が低下していました。どうやら糖尿病になると、高血糖、酸化ストレスの増大によって骨組織でのAGEsの形成が進み、骨質が低下してしまうようです。

糖尿病患者が、骨質劣化の影響で骨密度が高くても骨折しやすくなる境目は、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)7.5~。HbA1cは糖尿病の指標で、赤血球中のヘモグロビンの中でどれくらいの割合がブドウ糖と結合しているかを示し、HbA1c6.5~7.5が軽症ラインです。

②慢性腎臓病(CKD)

慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の働き(eGFR)が健康な人の60%未満に低下する(eGFRが60/分/1.73㎡未満)か、あるいはタンパク尿が出るといった腎臓の異常が続く病気です。私たち慈恵医大チームは研究で、eGFRが60%を下回ると、骨質の劣化が始まることを確認しました。

慢性腎臓病は糖尿病と並んで、酸化ストレスが増大する疾患です。そのため、骨密度の低下が比較的軽度でも、骨折リスクは上昇するものと思われます。

eGFR60%以下の慢性腎臓病患者の大腿骨近位部骨折率は5.2%で、慢性腎臓病ではない人の2.12倍に達しています。また、慢性腎臓病患者の骨折は、そうでない人と比べて若い年齢で起きることが特徴です。

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不眠症も骨粗しょう症を招く

③慢性閉塞性肺疾患(COPD)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は骨折のリスクを高める代表的な生活習慣病の1つと考えられています。骨折リスク上昇には、骨密度の低下と骨質劣化の両方が関与しています。

慢性閉塞性肺疾患の患者255人について調べた研究によると、骨密度のみを用いた診断では骨粗しょう症は23.6%でしたが、実際の椎体骨折は36.5%であったことから、慢性閉塞性肺疾患の患者さんの骨折には、低骨密度に加えて骨質劣化が大きくかかわっていることが示唆されました。

慢性閉塞性肺疾患の方では、「高齢」「喫煙」「低体重」「身体活動(安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費するすべての動作)低下」といった一般的に骨折リスクを高めるとされる因子に加え、ビタミンD不足・欠乏やサルコペニア(加齢による筋肉量の減少および筋力の低下)などによって、骨折リスクがさらに上がる可能性があります。

④高血圧、動脈硬化

高血圧では、大腿骨近位部骨折のリスクが1.19~1.6倍に、骨粗しょう症性骨折のリスクが1.3倍に上昇し、その関連性は男性よりも女性で強いことが報告されています。

また、心筋梗塞・脳梗塞などの心血管疾患は動脈硬化が原因で発症しますが、動脈硬化を起こしやすくするのが、高血圧・脂質異常症・骨粗しょう症で、発症の仕組みが一部共通することから、心血管疾患と骨粗しょう症の関連性は大きいと考えられています。

⑤睡眠障害(不眠症)

睡眠障害も骨量減少に関与することがわかっています。

不眠症にともなう夜間の成長ホルモン分泌低下に加え、メラトニンの低下によって破骨細胞の作用に抑えが利かなくなることで骨量が減少します。さらに不眠症によって、炎症性サイトカインの分泌が亢進されることも骨量減少を招きます。

良質の睡眠が確保されている場合には、交感神経系の活動は低下し、骨・筋肉の新陳代謝が順調に起こります。しかし、不眠症になると、交感神経系が絶え間なく活性化され、骨の新陳代謝が低下して、結果的に骨量が減少します。

また、不眠と転倒リスクは大いに関連があり、睡眠薬を服用していなくても、不眠症患者では転倒リスクが52%も上昇します。骨折の直接の原因となる転倒の4分の1は、眠れないことから歩き回ってしまうことが多い、夜間に起きています。