必ず起こる災害への備え
―― 高嶋さんがインフルエンザ・パンデミックを描いた『首都感染』が、コロナ禍を予言していたと大いに話題になりました。ほかにも災害や原発事故など現実の「その先」を描く作品をお書きになってきました。その着想はどこから来るのでしょうか。
まず過去の事実を見つめ、情報収集と現状分析ですね。そこから、こういうことが起こりえる、こうなったら物語がよりリアルになる、と考えていきます。
今回の『チェーン・ディザスターズ』でいえば、日本で起こった過去の多くの災害、そして政府が発表している被害想定がベースになっています。被害想定が出る過程を調べると、その基になっている数値が見えてくる。そこから発想します。また、その想定に対して、現在の科学技術でどれだけのことができるのか。あるいは起こってしまったら何が必要になるのかという想像力ですね。
―― それが『首都感染』のように結果的に予言のようになる場合があるわけですね。この小説が現実化するという可能性もかなりあるということでしょうか。
少なくとも南海トラフ地震はいずれ確実に起こります。ただ、わからないのは、それがいつ起こるか、どれくらいの規模になるのかです。いまこの瞬間も海洋プレートと大陸プレートがぶつかり合って毎年数センチずつひずみがたまっています。大陸側のプレートが地下に引きずり込まれている。いつかはたまったひずみに耐えられなくなって跳ね上がる。それが南海トラフ地震です。起こることはわかっているので、いまのうちにできることをやっておかないと本当に大変なことになります。
―― いずれ南海トラフ地震があるとわかっている。にもかかわらず、何となく毎日を送っている。自分も含めて多くの人がそうだと思います。
この国はこの三十年弱でこれまで多くの危機を経験してきましたよね。阪神・淡路大震災で都会型の震災を、東日本大震災で広域型の震災を経験し、コロナ禍は日本全国を巻き込みました。能登半島では過疎地の孤立化、高齢化地区の災害という新たな問題も出てきました。果たしてそうした経験が蓄積され、今後生かされていくのかは大きな課題ですね。他人事ではなく自分事として考える必要があると思います。
―― 『チェーン・ディザスターズ』では、政治家が主人公ということもあって、国全体をどうするかという視点で物語が進んでいきます。そこで経済の問題が浮上してくるなど、災害の被害だけでなく、そこから派生する問題まで見据えていますね。
災害の被害としては、直接的な被災以上に、経済的な打撃が日本を襲うでしょう。大勢の人が亡くなり、建築物やインフラが失われることももちろん大きな打撃ですが、それだけでは終わりません。経済の問題は国全体に影響しますし、世界に波及する可能性もあります。日本発の世界大恐慌の可能性すらある。一度駄目になったら、立て直すのは相当困難でしょう。
実はこの作品の続きを考えていて、そのあたりのことも構想に入っています。どうすれば日本の強みを生かし、再生できるのか。続編を書く機会があれば、そのことをじっくり書いてみたいと思います。
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チェーン・ディザスターズ
高嶋 哲夫
2024年11月5日発売2,090円(税込)四六判/400ページISBN: 978-4-08-775470-4
【災害シミュレーション小説の第一人者の集大成!】
【推薦コメント続々!】
●地球科学の最新予測がふんだんに盛り込まれ、必ず来る激甚災害がリアルにイメージできる! 鎌田浩毅 (地球科学者・京都大学名誉教授)
●破滅的な大惨事を描くリアルな予測小説であり、政治家の的確な判断と行動力を描く優れた政治小説だ。 池上冬樹 (文芸評論家)
●その日は近い。生き残りたければ、これを読め! 解答はすべてここにある。 郷原宏 (文芸評論家)
202×年7月。
長年危惧されていた南海トラフ巨大地震が発生し、日本列島の太平洋岸は壊滅状態に。
若き環境大臣・早乙女美来は、特に被害が大きかった愛知へ向かった。
名古屋では、地元IT企業「ネクスト・アース」がAI技術を駆使して開発した〈エイド〉によって、迅速な行方不明者の捜索と救助、避難所運営がおこなわれていた。
追い打ちをかけるように東京直下型地震が発生。
さらに8月には、過去最大級の大型台風が首都圏を襲う。
東京のビル群は崩れ落ち、閣僚の大半が亡くなり、緊急事態に対応するため美来が史上最年少で総理大臣に抜擢される。
しかし、絶望的な状況で、ついには富士山噴火の予兆が見え始め……
初の女性総理・早乙女は、ネクスト・アースのCEO・利根崎に協力を仰ぎながら、日本最大の危機に立ち向かう。
崩壊に向かう日本を救うことが出来るのか――。