Credit: USFWS Pacific, X(2024)

いくつになっても恋をするのに遅すぎることはありません。

しかし妊娠・出産となるとまた話は別です。

アメリカ合衆国魚類野生生物局(FWS)はこのほど、世界最高齢の鳥として知られるメスのアホウドリ「ウィズダム」が74歳にして新たなパートナーと交尾し、卵を産んだと報告しました。

アホウドリの平均寿命は20年から長くて50年ほどとされていますが、ウィズダムはその中でも最長です。

さて、彼女はどのような波乱万丈の人生(鳥生?)を送ってきたのでしょうか?

目次

求愛ダンスで「一夫一妻」のペアを作る74歳で新たな恋人と交尾し、出産!

求愛ダンスで「一夫一妻」のペアを作る


アホウドリ/ Credit: canva

アホウドリ(学名:Phoebastria albatrus)はあらゆる鳥類の中でも非常にユニークな種です。

海鳥として知られるアホウドリは主に北太平洋の島々に分布し、夏場はベーリング海やアラスカ湾の辺りまで北上し、冬場になると繁殖のために南方へ渡りをします。

成鳥のサイズは全長約100センチ、体重は5キロ前後に達し、空を飛べる現生鳥類の中では最大級です。

またアホウドリは私たちと同じように一夫一妻制を採用しており、お互いのパートナーが生きている限り、毎年交尾をして卵を産みます。

アホウドリはパートナーを見つけるときの求愛ダンスの面白さで有名です。

野生生物の求愛というと、その多くがオスからの猛烈なアピールの形を取りますが、アホウドリはオスとメスが一緒になって激しいダンスを踊ります。

実際の様子がこちら。


アホウドリの求愛ダンス/ Credit: U.S. Fish & Wildlife Service(youtube, 2017)

このように激しいヘッドバンギングをして、お互いにセッションを繰り返します。

彼らの求愛ダンスは鳴き声も大切なので、よかったらこちらの動画もご覧ください。

(※ 音量注意)

アホウドリの夫婦は基本的に別々の場所で暮らしていますが、繁殖シーズンになるとまた同じ場所に戻ってきて1年ぶりの再会を果たします。

みんな同じような見た目をしているのに、ちゃんとパートナーを見分けられるのはすごいですね。

そして10〜11月に1個の卵を産み、オスメス交代で卵を温め(抱卵)、おおよそ64〜65日の抱卵期間が過ぎると、翌年の1〜2月に孵化します。

ヒナは生後10カ月ほどで空を飛べるようになり、故郷を巣立って海へと飛び立ちます。

若きアホウドリたちが性成熟に達するのは5年〜10年ほどです。

つがいとなったアホウドリのペアは時に離婚をして新たなパートナーを見つけることもありますが、基本的にはどちらかが亡くなるまで連れ添います。

しかし、その中でも波乱万丈の生涯を送ってきたのが、今回の主役である「ウィズダム」でした。

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74歳で新たな恋人と交尾し、出産!

ウィズダム(Wisdom)は北太平洋の北西ハワイ諸島にあるミッドウェー島の国立野生生物保護区に暮らすメスのアホウドリです。

ミッドウェー島には繁殖シーズンに入ると毎年300万羽のアホウドリが一堂に会します。

そこでウィズダムが最初に発見されたのは今から68年前の1956年のことでした。

アホウドリのメスは5歳を超えるまでは産卵することができません。

その当時、ウィズダムが産卵をしたことが確認されていることから、少なく見積もっても2024年時点で74歳に達していると考えられるのです。

これは確認されている現生鳥類の中で世界最高齢と見られます。


2022年にミッドウェー島で確認されたウィズダム(足首には7333の標識がある)/ Credit: FWS – Wisdom, the World’s Oldest Known Wild Bird, Returns to Midway Atoll(2022)

ウィズダムの年齢はアホウドリの中でも異例であり、生物学者のジョン・プリスナー (Jon Plissner)氏は最近、BBCラジオにて「ウィズダムの年齢に近いアホウドリは他に知られておらず、彼女の次に高齢のアホウドリでも45歳に過ぎない」と話しています。

そんなウィズダムにも長年連れ添った夫がいました。

彼の名前は「アケアカマイ(Akeakamai)」というオスで、研究者によると、彼らは60年近くにわたってパートナーとなっていたといいます。

彼らはアホウドリの習性に従い、いくつになっても1年ごとに再会を果たしては交尾と産卵を続けていました。

ウィズダムはこれまでに、アケアカマイを含めて少なくとも3羽のオスとつがいを形成し、50〜60個の卵を産んで、そのうちの30個は一人前のアホウドリとして成鳥しています。

つまり、彼女はとんでもない数の子供たちがいるビッグマムなわけです。

ところが2021年を最後に、長年のパートナーであるアケアカマイの姿がパッタリと見られなくなりました。

これはおそらく寿命のせいか、アケアカマイが営巣地に戻ってこれず、死んでしまった可能性が高いです。

ウィズダムが最後に産卵したのは2021年のことであり、アケアカマイもいなくなったことから、これで彼女の種としての仕事は終わったかに見えました。

しかしFWSの研究者たちは今年11月になって驚きの発見をします。

なんと御年74歳のウィズダムが新しい恋人を作っており、彼と交尾をして、新たに卵を産んでいたのです。

新しい恋人と一緒に卵を温めるウィズダムの様子がこちら。

※ 音量にご注意ください。

恋をするのに年齢は関係ありませんが、74歳にして普通に卵まで産んでしまうウィズダムは、やはり驚異のバイタリティーの持ち主と言わざるを得ないでしょう。

ウィズダムの産んだ卵はまだ孵化していませんが、営巣地に産み付けられた卵のうち、毎年70〜80%は無事に孵化するので、ウィズダムの卵も大いに期待ができます。

さて、ウィズダムは最高齢での出産記録をどこまで伸ばしてくれるのか?

今後も注目が集まります。

参考文献

Wisdom, the World’s Oldest Known Wild Bird, Returns to Midway Atoll
https://www.fws.gov/story/2022-12/wisdom-worlds-oldest-known-wild-bird-returns-midway-atoll

Wisdom, The World’s Oldest Bird, Lays Egg At 74 Years Old After Finding New Mate
https://www.iflscience.com/wisdom-the-worlds-oldest-bird-lays-egg-at-74-years-old-after-finding-new-mate-77074

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部