時折、耳にするBPOの「審議入り」は、放送局にとって実のところかなり重いものです。2023年2月、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』に降って湧いた「審議入り騒動」の顛末を追いつつ、「審議」などの意味するところを解説します。
スレッタ(左)とミオリネ。「The Report of 機動戦士ガンダム 水星の魔女 Season1」(編:ニュータイプ編集部/監修:バンダイナムコフィルムワークス/KADOKAWA)
【画像】ネット上でも「無謀だろwww」みたいな空気感でした…こちらがその『妹ちょ。』の過激な妹「美月」とがんばりすぎてR指定の実写版です(3枚)
実は大きな差がある「審議」と「議論」
2023年2月、TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』がBPO(放送倫理・番組向上機構)にて「審議」入りとの情報が流れ、一時、騒ぎとなります。このときBPOでは「議論」が行われたのみで、審議入りの事実はありませんでした。
この「審議」と「議論」は、なにが異なるのでしょうか。
そもそもBPOは、放送された番組に対する苦情への対応や、放送倫理上で問題があるとされた番組について検証する、いわゆる第三者機関です。「放送倫理検証委員会」「放送人権委員会」「青少年委員会」の3つから構成され、『水星の魔女』の件はその青少年委員会にて議論されたといいます。
青少年委員会では、番組の視聴者から「問題がある」として寄せられた意見はまず「議論」され、必要が認められれば「討論」へ、さらに必要が認められると「審議」に入るという流れです。
「審議」では、番組の問題点について「委員会の考え」がまとめられ、さらに委員の3分の2以上の賛成があれば委員会の「見解」とされます。番組の放送局は対応が求められ、つまり審議入りの時点でその番組は従来どおりの放送を続けることができなくなるという見方ができるでしょう。ゆえに「審議入り」という言葉には、相応の重みがあるというわけです。
『水星の魔女』については、2023年1月24日に開催された第253回青少年委員会にて、「主人公の乗った戦闘ロボットの巨大な手で敵の人間を押しつぶす描写があり、不適切と考える」「小学生の子どもと見ていたが、あまりにショッキングなシーンに言葉を失った」といった視聴者意見が寄せられたことに対し、議論されたとのことです。
議事録によると、「分離した腕が宙を舞うところでは鮮血の色を暗い色に変えているが、日曜の5時に家族で見るシーンではないだろう」「このシリーズは、わりあいほのぼのとした展開だったが、急に残虐なシーンが出てきたので、視聴者がびっくりしたところが大きいのではないか」「小さい子どもは怖いかもしれない。ただ、つぶされた人間自体は描かず、飛び散る血を暗い色にしているなど、一定程度配慮された表現になっている」といった意見が出され、結論として「討論」に進むものではないとされています。
では「審議入り」となった番組には、どのような対応がなされるのでしょうか。
アニメ作品の事例では、2014年の冬アニメ『最近、妹のようすがちょっとおかしいんだが。』が審議入りとなっています。義理の妹「美月」に幽霊が取りつき、兄とラブラブな関係にならないと死んでしまうというラブコメで、地上波では東京MXテレビとサンテレビにて放送されていました。
元々、性的表現の多い作品で、「女子高生に貞操帯をつけたり自慰のシーンを放送するなど、午後10時台に放送するような内容ではない」「未成年の女性がお漏らしをしたり、女性同士のみだらな場面や、あえぎ声など、性表現が過激すぎて、青少年に悪影響を及ぼしかねない」などの視聴者意見を受け、委員全員が第1話、第2話を視聴した上で討論、「内容と放送時間帯が問題だ」「この時間ではアウトだと思う」といった、おもに(内容に対する)放送時間を問題視する意見が出されます。
2014年1月28日にその審議入りが決定されると、従来、土曜22時30分からだった放送開始時間は、いずれの局でも深夜帯に変更されました。