「電話が怖い…」鳴るたびに動悸、手汗…世界中で広がる「電話恐怖症(テレフォビア)とは…アメリカでは8割の若者が電話に不安感を 

「電話恐怖症」とは何か

「電話恐怖症(テレフォビア)」という正式な病名はまだありません。病名ではなく、状態とか傾向と理解していただければいいでしょう。 

ではその状態はどういうものかというと、電話に出ることやかけることに嫌悪感や不安感があり、心身に症状があらわれるものをいいます。

身体症状としては、手に汗をかいたり、動悸や息切れが激しくなったり、吐き気がする、口が乾く、震えが出るなどがあります。心理的な症状では、不安になったり、焦り、恐怖心がつのったりするといったことがあげられます。

それが病的であるかどうかは、社会生活がスムーズに行えるかどうかで判断します。それこそ会社をやめなければならないとか、家から出られないほどのものだと、病的な部類に入ると思います。

先のBBC Science Focusの記事では、アメリカで何らかの社交不安を抱える人が1500万人くらいいるともあったように、電話恐怖症も社交不安のひとつでしょう。

電話恐怖症も含めて、病的な社交不安を持つ人は他人からネガティブな評価を受けたり、批判されたりするのを極度におそれる特徴があります。

そのため、人と対面したときに緊張してうまく話せなくなり、その失敗がまた起きるのではないかと不安になります。

するとまだ不安が起きる前から、原因となる対人関係や社会的な場面を回避するようになるのです。この図式を電話恐怖症に当てはめるとこうなります。

電話をかけたり受けたりしたときに、緊張し、不安になる

うまくいかない応対が相手にどう思われるか。また、周りからどう評価されるかを気にする

自己嫌悪におちいる。場合によっては周りから指摘を受ける

また同じことが起きるのではないかという予期不安が起きる

電話をかけたり、受けたりする場面から逃げようとする

電話恐怖症の後ろには、人からどう見えるかを気にする社会的な不安があるのです。

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中高年でも苦手な人は多い

電話が苦手なのは若者ばかりとは限りません。社会経験を積んだ中堅社員からも、「電話がかかってくると緊張する」「うまく話せない」といった相談が少なからずあります。

ある企業の重鎮の取締役から相談を受けたことがあります。その方は社内の重要ポストを歴任し、数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験豊富な人間ですが、「実は電話が鳴るのがこわいんです」と打ち明けてくれました。

その方の場合、電話がこわくなった理由は、電話が鳴るのがたいていトラブルのときだからというのです。

電話の用件は、その方にかけてこなければならないほど重大なトラブルか、急用です。「また何か重大案件が……」と思ってドキッとするそうです。

責任が重くなればなるほど、電話の用件も重くなる。あたかもパブロフの犬のように、電話が鳴る=緊急事態が起きた、と刷り込まれてしまっているので、電話がこわくなってしまったのでしょう。

また、この方とは立場が真逆の、いわゆるラインから外れた中年社員から相談を受けたこともあります。

この方の部署はめったに電話が鳴りませんが、それゆえたまに鳴ると、どうしようかとうろたえてパニックになり、電話に出ることもできないそうです。

その人の世代では電話のツールが日常的にあったはずですし、経験値も低くありません。

それでも電話が苦手ということは、電話以前の問題、つまりもともとの他部署との関係性やコミュニケーションに問題があるのではないでしょうか。

このようにたとえ中高年の社員で、十分電話というツールに慣れ親しんでいても、「電話がこわい」「電話が苦手」という人は一定数存在すると思っていいでしょう。

文/大野萌子 写真/Shutterstock