毎年恒例の宝島社発行のマンガのランキング本「このマンガがすごい!2025」にて、オンナ編1位がよしながふみの『環と周』となったことが発表された。
漫画誌「ココハナ」で連載されていた『環と周』は、2023年10月23日にコミックスとして発売された。また、「ココハナ」最新1月号では、よしなが氏による新連載、濃密な芸能界ストーリー『Talent-タレント-』がスタートしている。
よしなが氏に、少女漫画にこだわる理由などを聞いた貴重なインタビューをお届けする。(サムネイル・トップ画:©︎よしながふみ/集英社)
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10年前にもNHKから実写化の誘いがあった
——よしながさんにとって2023年は、NHKで『大奥』の実写ドラマが始まったり、Netflixでアニメ版が配信されたりとトピックが目白押しですが、これは偶然ですか?
はい、たまたまです(笑)。『大奥』は連載が終わるタイミングで、NHKさんからお声がけいただきました。
実は、NHKさんからは10年ぐらい前にも実写化のお話をいただいていたのですが、その少し前にTBSさんのほうからのドラマ化が進んでいたので、一度お断りする形になっていました。
——原作者から見て、ドラマはいかがでしたか?
生身の人間が演じるパワーにも圧倒されましたし、森下佳子さんの脚本が素晴らしかったです。森下さんは『おんな城主 直虎』や『JIN-仁-』を手掛けてこられたので、プロ中のプロであることは重々承知しているのですが、1話45分とは思えない物語の密度に驚かされました。45分が終わるころには、次の壮絶な展開が始まるんですよね。
3話なんて、徳川家光(堀田真由)が息を引き取った次の瞬間、極彩色の綱吉(仲里依紗)が艶やかに登場して、家光の悲劇が一瞬で神話のように遠く感じました。あんなに切ない最期から一瞬で派手な話に変わる。テレビを見ながら「私が漫画で描きたかったのは、この大河の流れを感じる物語だ」と思いました。これこそ、人の生きていく歴史。
以前の実写化は「有功・家光篇」「右衛門佐・綱吉篇」だけだったので、今回は映像化されていない部分も見られます。これから激動の幕末が待っていますし、1人の視聴者として楽しみです。
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幼少期の自分にとって、少女漫画は拠り所だった
——『大奥』は男性からも根強い支持があります。同作は少女漫画誌「MELODY」で連載されていましたが、青年誌などで連載することは考えましたか?
いえ。「MELODY」は山岸凉子先生の『日出処の天子』を連載していた白泉社さんでしたので、とても光栄でした。
そもそも、自分の作品はすべて少女漫画だと思って描いています。
——『きのう何食べた?』もですか? 媒体は青年漫画誌「モーニング」(講談社)ですよね。
はい。私の中では少女漫画です。周りの友人たちからは連載当初「青年誌でやっていけるの⁉︎」と連絡をもらうぐらいでしたけれど、長く愛していただいているので、本当によかったです。
その点、『環と周』は80〜90年代前半の少女誌に連載されていそうな作品です。
たとえば、明治時代が舞台の第2話では、環と周が女学生として出会って仲を深めていく物語ですが、懐かしいタイプの少女漫画になったと思います。
——女学生同士の絆を描く一大ジャンル「エス」を思い出しました。
”百合モノ”の元祖である吉屋信子先生は、昭和や大正を舞台に「エス」の小説を綴っていらっしゃいますよね。『環と周』第2話の舞台は明治時代ではあるのですが、近いと思います。
——少女漫画にこだわる理由はありますか?
私が幼少期を過ごした80年代ごろまでは、少年漫画じゃないものはすべて少女漫画が内包していた時代でした。青年漫画っぽい作品もBLもありで、混沌としていた。
たとえば、一条ゆかり先生の『砂の城』は、30代後半の女の人が18歳の青年と恋に落ちる話ですが、「りぼん」で連載していましたから。一条先生で言うと、同じく「りぼん」で連載されていた『デザイナー』も、お仕事漫画としても金字塔。先ほど出た『日出処の天子』の主人公は同性愛者ですし……。
少女漫画は、男女に限らず人間の性愛や友愛など、いろいろな関係が描かれていて、子どものころの自分にとっては、拠り所のようでした。