〈このマンガがすごい!2025オンナ編1位〉よしながふみが16年寝かせた『環と周』を連載する際に変えたもの「男女における『わかりやすいすれ違い』は、もう描かなくていい」

12月13日に発売される、恒例のマンガランキング本「このマンガがすごい!2025」(宝島社)の1位作品が発表された。今年のオンナ編第1位はよしながふみの『環と周』が選出。

『大奥』『きのう何食べた?』など、数多くのメガヒット作を生み出してきた漫画家・よしながふみ。漫画誌「ココハナ」最新1月号では、よしなが氏による新連載、濃密な芸能界ストーリー『Talent-タレント-』がスタートしている。

やはり「ココハナ」で連載されていた『環と周』は16年前に連載予定だったものの、”諸事情”で見送りになっていたという。令和という時代を迎えての連載開始にあたり、「何をやめ、何をプラスし、何を残した」のか? コミックス刊行時に行なった貴重な本人へのインタビューをお届けする。(サムネイル・トップ画:©︎よしながふみ/集英社)

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「性別はどっちでもいいじゃない」

——『環と周』の第1話は、母親が「娘が女の子とキスをしているところを目撃する」シーンから始まります。これはどういう意図があったのですか? 同性愛が主軸にくるのかなと思ったのですが、そうではありませんでした。

『環と周』は、ひとことで言うと、環と周が輪廻転生しては、いろいろな関係で出会い、さまざまな「好き」で繋がっていくオムニバスです。なので、同性愛がメインテーマではありません。さまざまな「好きのかたち」のひとつ……といいましょうか。

冒頭のシーンは、「親目線で言うと、子どもがキスしている姿を見るのは驚くよね」という“あるある”です。

——たしかに、第1話が現代の夫婦、第2話は明治時代の女学生同士、第3話はアパートのご近所さん……それぞれが多様な「好き」で繋がっていますね。どういうきっかけで連載が決まったんですか?

実は『環と周』は、16年前に連載をしようという話になっていて、すでに骨子はできている状態でした。

——なぜそのときに連載が始まらなかったのでしょう?

『大奥』が軌道に乗り始めて、「転生モノをやってみたい」と思ったタイミングで『きのう何食べた?』が決まったんです。自分の中で「同時連載は最大2本まで」と思っているので、集英社さんに待っていただいていました。

『きのう何食べた?』は4〜5巻で終わると思っていたのですが、まったく終わりが見えない(笑)。逆に『大奥』が先に完結し、結果として16年間お待ちいただく形になってしまいました。

——16年も寝かせると、時代にマッチしなくなるリスクがありそうです。当初考えていた設定や描写で変更した点はありますか?

いくつかあります。たとえば、16年前は「男はこっちで、女はこの名前」という想定をうっすらしていたのですが、連載を始めるときにやめました。

——それはなぜですか?

やはり時代の流れです。「性別はどっちでもいいじゃない」となりました。「環」と「周」はそれぞれ「転生する」という暗示でもあるのですが、とにかくユニセックスな名前にしたかった。

あと、『環と周』全5話の中には異性愛モノが2話あるのですが、異性愛も友情や親心みたいな感情と並列にしたいと思っていたんですね。なので、異性愛モノの2話は「環くん、周さん」「環さん、周くん」のように男女シャッフルすることで、少しでもニュートラルな物語になったらいいなと思いました。

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男女間のわかりやすい「すれ違い」は、もう描きたくない

——第1話の現代を生きる環と周夫婦は、共働きの設定で家事分担もしっかりできていて、現代風な印象を受けました。よしながさんは、これまでも『愛すべき娘たち』や『子供の体温』などで親子モノを描かれてきましたが、今作は関係がマイルドになったというか、「対話」をしている印象を受けました。

はい。ここ5年ほどで社会は激変したと思っているので、それに合わせて調整しました。16年前は、昔ながらの夫婦のすれ違いを描いていたんですよ。

——「夫がこういうことしてくれない、妻のこういうところが考えられない」のような?

そうそう。なので、男女における「わかりやすいすれ違い」は、もう描かなくていいかなと。逆に「きちんと対話している夫婦であっても、うまくいかないことがある」というほうが、現代ではリアルなような気がします。

——どんなに努力していても、妻と夫が考えていることは違うし、娘の思考もわからない、と。

意見のすれ違いを目の当たりにして「どうしてこの人と結婚したんだろう?」と思うこともあるけれど、最終的には相手の姿勢に「こういうところが好きだったんだ」と納得する。夫婦関係って、この連続なんじゃないかなと思います。