シリアでアサド政権が崩壊し、アサド大統領と一族はロシアに亡命した。そんな中、12月7日にトランプ次期米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領がパリで電撃的に直接会談を行ったことが大きな波紋を拡げている。
今回の会談は、大規模火災で被害を受けたパリのノートルダム大聖堂での再開式典にトランプ氏とゼレンスキー氏が招かれたのを契機に、マクロン仏大統領の仲介で行われたもの。
もともと、ロシアのウクライナ侵攻についてトランプ氏は、財政負担となっているウクライナ支援の縮小化、さらには大統領になった際には自身が調停者となり早期の幕引きを図る考えも示してきた。そのためウクライナや欧州各国では、ロシアに有利な形で幕引きがなされるのでは、との警戒感が強まっていた。
そんな折の電撃会談となったわけだが、ゼレンスキー氏は会談の詳細は明かしていないものの、SNSで「引き続き協力し、連絡を取り合っていく」ことで合意したと明かし、「皆、戦争が公正な形で早く終わることを望んでいる。平和は力によって可能となる」と、何事かに納得したかのような意味深な発信をしている。
米シンクタンク関係者は、今回の会談の裏をこう分析する。
「ポイントは、アサド政権崩壊で何が起きるかで、遠からずロシア経済が泥沼状態に陥る可能性が大きい。トランプ氏にすれば、そうした情報が蠢くなか、ロシアに優位な形でウクライナ戦争の調停をやる必然性がなくなったということ。ウクライナには、これまで同様ほどほどの支援を続け、ロシア経済がドン底まで落ち込んだところを見極め、そこから停戦話を持ち込めば済む話と考えているのでは」
では、シリアでアサド政権が崩壊し反政府勢力が権力を握ることが、なぜロシア経済の悪化を招くのか。前出のシンクタンク関係者によれば、ロシア経済を支えてきた一つは、対立しながらも欧州に売り捌いてきた天然ガスや石油という。ロシアは欧州に核の脅しもかけながら「そこまでウクライナに肩入れするならガスバルブを閉める」と圧をかけ続けて欧州の足並みを乱れさせ、ウクライナとの戦況を有利に進めてきた。
「欧州はイラクやクウェート、サウジアラビアなどの石油・天然ガスを自由に買い取りたかったのですが、その間に挟まるアサド政権のシリアが壁となっていた。そのアサド政権が倒れ障壁がなくなったことでパイプライン敷設が進み、今後は中東のエネルギー供給を自在に得ることが可能となる。一方で散々振り回されてきたロシアの資源は必要がなくなるわけです。となると、ロシアはこれで金の成る木を失い経済がガタガタになる」(同)
アサド政権崩壊という絶体絶命のピンチに、プーチン氏の次の一手は。そして、トランプ氏は弱体化したロシアにどんなディールを持ちかけるのか。
(田村建光)