国内で物価上昇が続く中で12月上旬、帝国データバンクが「カレーライス物価指数」が7か月連続で最高値を更新したと発表した。そもそも「カレーライス物価指数」って? そしてこの先、日本の経済はどうなっていくのだろうか。
カレーの価格が1年で1.2倍以上に
カレーの調理に必要な原材料や光熱費等の価格(全国平均)を基に算出した、カレーライス 1 食当たりのトータルコストを示す「カレーライス物価」。こちらが2023年10月の時点では308円だったものの、1年後の今年の10月には371円を記録したという。
その主な原因がコメの価格の高騰であり、肉や野菜などのカレーの具材に関してはそれほど上がっておらず、水道光熱費やカレールーに関しても、前年同月比から変動はなかったようだ。
庶民の食卓に頻繁に登場するカレーライスのコストが、前年に比べて1.2倍以上になっていると聞くとぎょっとしてしまうが、その内訳をみると、何とも言えないところもある。
政治経済評論家の池戸万作氏に見解を聞いてみた。
「まず、『カレーライス物価指数』という指標ですが、私自身も初めて知りました。私は大学院でマクロ経済学を学び、5年前から政治経済評論家として活動していますが、マクロ経済学の世界では登場したことの無かった言葉です。帝国データバンク社による日本国内向けの独自の指標のようですね。
日本国内では1997年の消費税5%増税以降、25年間に及ぶデフレにより、物価が上がらない経済状態がずっと定常化していたため、そうした物価上昇を示すような言葉は、これまで世に出てこなかったのかもしれません。裏を返せば、そうした指標が脚光を浴びるようになったということは、よくも悪くもデフレ脱却の“兆し”とも言えそうです。
ただ、“カレーライス物価指数”が跳ね上がった理由は、今秋の米不足問題に端を発している側面もあると思いますので、米不足が解消された現在においては、カレーライス物価指数の方も落ち着いてくるかもしれません」(池戸万作氏、以下同)
この「カレーライス物価指数」が国内向けの指標であるならば、世界向けの指標として有名なのが、「ビックマック指数」だ。
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日本は激安! 世界各国のビッグマックの価格
イギリスの経済誌による指標で、マクロ経済学の世界でも割とメジャーな指標として、マクロ経済学の教科書にも掲載されているビックマック指数。マクドナルドで販売されているビッグマックを例にとり、世界各国の購買力の比較と、適正な為替レートを示す指標として使用されている。
2024年1月の時点で、日本のビッグマックの価格は3.04米ドルとなっていた。他方、韓国4.11ドル、タイ3.78ドル、中国3.47ドル、EUの中で最も貧しい国の一つとして知られるルーマニアが3.42ドルと、日本は先進国の中では下位に属している。
2024年7月時点でも、日本のビッグマックの価格は480円(一部地域を除く)で、3.19ドル。1位のスイスは8.07ドルで、日本円に換算すると1214円だ。
日本では現在、「カレーライス物価指数」が示すように物価が上昇し、飲食チェーンでも軒並み値上げが行なわれている。それなのに世界的に見れば、貧困国とも言われるほどの立ち位置となってしまっている。
「貧困化が進んだ原因は、やはり前述の1997年からのデフレ経済にあります。21世紀に入ってからの日本の年平均インフレ率は0.36%と、全世界で最下位。他の先進国ですと、アメリカは2.53%、イギリスは2.60%、ドイツは2.07%、比較的低いフランスでも1.91%と、年率2%程度は上昇しています」
これが20年間積み重なると、年平均2.5%で1.63倍、年平均2%でも1.48倍にもなる。そう考えると、2001年当時に、日本円にして仮に400円だったビックマックの価格が、20年後の2021年には600円~700円になるのは、実はごくごく当たり前な経済現象なのだという。
「この25年間、物価がほとんど上がらないデフレ経済の日本の方が異常であって、今の日本は、やっと“正常な”経済状態に戻りつつあると考えるべきではないかと私は思います。異常なデフレ状態が正常だと慣れ切ってしまったから、正常なインフレ状態が、あたかも異常現象のように、今の日本人には感じてしまうのだと思います」