「電話のかけ方がわかりません」内線すらかけられない若者も…電話恐怖症を量産している「雑談の減少」ともうひとつの理由

かつては日常頻繁に使われるコミュニケーションツールだった電話が、今では退職理由になるほどの厄介者扱いになっていることをご存知だろうか。スマホでメッセージは気軽に送れるのに、電話で話すことには、どうしてここまで「苦手」な人が増えてしまったのか。

『電話恐怖症』 (朝日新書) より、一部抜粋・再構成してお届けする。

雑談の減少が「電話が苦手」の原因?

私が受ける相談でも「誰とも話さずに家にずっといて、いざ話をしようとする際に言葉が出てこない」というものが目立つようになりました。

話そうと思っても、言葉が出てこない。もっと深刻になると、声が出ないというのです。

コロナが明けて、オフィスワークに戻っても、その状況はつづいているように感じます。昔のオフィスはもっとざわざわしていて、あちこちでおしゃべりしている声が聞こえました。

仕事の帰りもみんなでどこかに寄ってにぎやかに楽しむ雰囲気があったように思います。

しかし今は仕事中、人と会話することが少なくなっています。

マルチタスクがふつうになって、人と話す余裕がないのもひとつの要因ですし、さまざまな働き方が増えてきて、職場にいる人がしょっちゅう変わるのも、会話が減った原因かもしれません。

マスクをして、私語を控え、個食や黙食の推奨も尾を引いていると思います。

とくに雑談が顕著に減っています。

誰かと話すときはチャットを使う。それこそ隣の席の人間にチャットで話しかけるといったことがふつうに起きています。

困ったことに、雑談が少ない職場は問題が起こりやすいというのが実際の体験からもわかっています。

人間関係でトラブルがある会社にリサーチに行ったとき、「うちはペンが落ちる音が響くくらい静かです」と言われて合点がいったこともあります。

ペンが落ちる音が響くということは、誰もしゃべっていないということです。しーんと静まりかえっていれば、話したくても話せない。みんなに聞こえてしまうので、こわくて話しかけることもできないでしょう。

すると職場でも一日、ほとんど人と話さない。在宅勤務で言葉が出てこなくなるのと同じ現象がオフィスでも起きているわけです。

となると、電話で話すなど、とんでもなく高いハードルに感じられます。電話が苦手な人が増えるのはいたしかたないといえます。

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固定電話を使った経験値が低い

電話が苦手になるのは、固定電話に慣れていないという時代背景もあるでしょう。

今や、家に固定電話がない家庭も多く、30代以下に至っては保有率は1割を切っています(令和5年通信利用動向調査)。

昭和や平成前半の生まれなら、家に電話があるのが当たり前でした。しかし今の若い世代は幼少期に家の固定電話に出たことがない、という人も少なくないのです。

また固定電話があっても、ナンバーディスプレイになっており、自分が知っている人からの番号のみに出ることが多いでしょう。

会社のように誰からかかってきたかわからない電話に出る経験など、まったくないといってもいいのです。電話機を使った経験がなければ、ハードルが高くなるのは当然です。

固定電話がなければ、当然、電話での取り次ぎや伝言をした経験がありません。

「お母さん、誰々さんから電話だよ」という経験が皆無だとすると、会社でも取り次ぎや伝言にとまどうのは目に見えています。

専門学校で講師をしていた人から聞いた話でびっくりしたことがあります。その学校ではビジネスマナーの一環で、電話の取り次ぎの授業がありました。

オフィスにあるような固定電話が置いてあり、講師が取り次ぎのしかたなどをレクチャーしたあと、「それでは私はこれから職員室に戻るので、私のところに電話をかけてきてください」と伝えたそうです。

そして職員室に戻ったのですが、待てど暮らせど、誰からも電話がかかってきません。どうしたのかと思い、教室に戻ってみると、学生たちが途方にくれて待っていました。

「先生、電話のかけ方がわかりません」

固定電話をさわったこともない学生たちは、受話器を取って、内線の番号を押すという当たり前すぎる動作すらわからなかったのです。

そういえば、ホテルに泊まったとき、若い人たちは室内に置いてある電話にはいっさいさわらないという話を聞いたことがあります。

モーニングコールなどだいたいのことは自分のスマホで用が足りてしまいますし、ルームサービスは頼まない。万一、タオルなど備品が足りなくても、我慢するのだそうです。

なぜかというと、ホテルの人とかかわるのが面倒くさいから。そのうちホテルの電話は部屋の装飾品の一部になってしまうかもしれません。