「『差別された』と騒ぐ前に、自分は笑いで返したい」ニューヨークから帰国したウーマン村本大輔「今が、自分史上最高」と言えるワケ

2024年2月に渡米し、スタンダップコメディ修行を続けていた村本大輔が、このたび一時帰国。ニューヨークでの経験は村本の何を変えたのか。12月20日に迫った凱旋ライブを前に、その想いを語った。

アメリカで自分の拙い発音をマネされて考えたこと

――アメリカで、慣れない英語を駆使してのネタの披露に苦労されているとのことですが、現地でウケるネタ、ウケないネタの境界などはある程度、見えてきましたか?

村本大輔(以下同)いや、これが全然。日本語と同じ言葉がないので、難しいです。例えばチケット料金を払わない女性のことを「無料の女」といいたい場合、訳すと「Free woman」になるんですけど、それだと「自由な女」という、ポジティブな意味合いになってしまって、まったくニュアンスが変わってしまう。

あとやっぱり、英語だと自分のしゃべるスピードが遅いから、途中でオチが読まれてしまうこともあって悔しいですね。だから最短距離でオチにいくように練り直したりもしてます。このあたりは日本ではまったく必要のなかった作業なので。

――今、ネタはどんなときに閃きますか? 

人の本音に触れるというか、本質的な、意義のある会話からネタが生まれることが多いです。例えば能登半島の被災地で僕のライブを主催してくれた人たちが、終わった後に、ライブを主催するにあたって抱いた葛藤とか、愚痴とか、本音を聞かせてくれた瞬間。そういうときに自分の心が動いて、なにかが生まれる感じがします。

あとは「これはおかしい」と思ったとき。

さっきも話したけど、テキサスにあるコメディクラブにふたつの部屋があって、それぞれに「ファット・マン」「リトル・ボーイ」と、長崎と広島に投下されたふたつの原爆の名前が付けられている…こういうのを見聞きするとスイッチが入るというか、脳が動きだす感じがあって。

あるとき、オープンマイク(入場料を払えば誰でもステージに上がれるスタンダップのステージ)で、次の出番の人に、僕の拙いしゃべり方や発音をマネされたことがあって。それですごく複雑な気持ちになって、そこからはずっと、どうやってこれをネタにしてやろうかなと考えてます。

――そのモノマネには、差別的な意味合いがあると感じましたか?

うーん…差別かそうじゃないかって、受け手の意識もあるからね。差別って、無知からくるものでもあるし。例えば日本人も、フィリピンから来た人の話し方をマネて「シャッチョウサン」とかって言うじゃないですか。あれは「第二言語の習得の苦労」を知らない人が、無知がゆえに、ただ目先のものをいじっている場合が多いと思うんです。

これは難しい問題だけど、僕は、自分が屈辱的で恥ずかしい思いをさせられたということを「差別」という言葉に置き換えて、「あいつは差別主義者だ」って容易に言う人にはないたくないなって。そんな被害者意識を持つくらいなら、その悔しさをジョークにして笑わせたい。笑わせたら俺の勝ち、みたいな。僕、芸人に限らず、暴力に対する返しに興味があって。

――どういうことでしょう。

以前、ミャンマーでクーデターが起こったとき、一般市民が国軍に対してデモを起こして、軍政権を批判するプラカードを持ってたんです。その中の1人の女の子が持ってたプラカードに「元カレよりも酷い」って書いてあって(笑)。この返しの美しさといったら!

受けた暴力に対するマジレスよりも、こうしたユーモアは生きていくうえでものすごく大事だなと思って。この厳しい社会を生きていくのに一番必要なカウンターだから。

石を投げたい人は投げればいいと思うけど、例えば僕がさっき話したような、自分の発音をいじられたときとか、腹が立ちそうなときに「さぁ村本、お前は笑いでどう返すんだ?」って突きつけられてる感じがして。その返しこそ僕の理想のコメディなんで。

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日本の芸人って年をとっていくと…

ーー12月20日には日本で久々の単独ライブが行なわれます。なぜ今回、日本でライブをしようと思ったのですか?

今年『アイアム・ア・コメディアン』という僕のドキュメンタリー映画が公開されて、それがきっかけで僕のことを知ってくれる人が増えたこともあって、まだアメリカに行って1年弱だけど、ちょっと大きいとこでライブをやろうかと。

それで11月半ばにいったん帰ってきて、日本でツアーをしたりもして。また違う新鮮な感覚で全国を回って、ネタを仕上げていきたいなと思って。渡米したことで、新たに感じたことを言葉にできたらいいなと。

――タイトル「Call me the GOAT」はどういう意味ですか?

GOATは、Greatest Of All Time”(史上最高)の頭文字を取ったスラングです。今日が最高。今、44歳の自分が一番仕上がってると。年々、自分が落ちていないということの確認がしたくてこのタイトルにしました。

――実際、相当仕上がってますか?

11月に帰国して初めてライブしたときに、アメリカから帰ってきた俺の、キレッキレのやつをみんな待ってるんやろうなと思ってたけど、正直、アメリカではずっと英語でネタ作ってたこともあって日本語の新ネタもあまりない。

さらに脳も日本にうまく切り替わってない感じもあって、少し迷いながらやってたら、ネタ中にお客さんから「今日キレ悪いぞ!」って野次が飛んできて(苦笑)。続けて「女でもできたんか!」って。

その野次を飛ばされてから、自分の中で開き直ったというか、自由になって。そこから自分の言いたいことだけを言うモードに切り替わったら、すごくウケたりもして。そんなわけで帰国後は、泣いて帰る日もあるかと思えば、キレッキレの夜もあって、その差がすごく激しい。だから次のライブもどうなるかは僕もわからんよね。

――12月20日のライブに来るお客さんに一言お願いします。

アメリカのコメディアンって年をとるごとに面白くなっていってる感じがあって。でも、日本の芸人って、年とっていくと、昔、面白かった人が、いつの間にかオチのない政治の話をダラダラしたり、ユーチューブで家族と遊んでたりして…数字になればなんでもいいんかっていうか、お笑いちゃうやんって。

被災地に行ったときにラーメン屋さんがラーメンをつくり、自衛隊の人が仮設の風呂をつくったりしてる中、お笑い芸人が炊き出しやってるのを見ると、「お前は笑いつくれるやろ」って思うんです。

僕は、笑いっていうのは、衣食住と同じくらい必要なものだと思ってるし、だからこそ自分は最後までコメディアンでありたい。

今の時代、ユーチューブとか、その場だけでクスッと笑える短い動画があふれてるけど、そういうものとは違う”代わりが利かない笑い”、普遍的で、俺にしかできない笑いを次のライブにもっていこうと思っています。

取材・文/金愛香

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ウーマンラッシュアワー村本大輔、渡米後初となるトークライブ「Call me the GOAT at ニッショーホール」

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