「客が笑っていないのを、無視できない自分が悔しい」“テレビから消えた芸人”村本大輔が語ったニューヨーク・スタンダップ修行の苦悩

テレビから消えた芸人――2024年2月に渡米し、スタンダップコメディアンとして精力的に活動している村本大輔(44)。言葉も環境もちがうなか、「翼がない状態」で奮闘を続ける村本は、ニューヨークで何を感じているのか。12月20日に日本で行なわれるライブを前に独占インタビューをお届けする。

”がんばってるから”と送られる拍手は、ちょっと屈辱的

――2月に渡米されてから、現地ではどのような活動を。

村本大輔(以下同)ニューヨークのコメディクラブやバーで、いろいろなオープンマイクに出てます。オープンマイクというのは、入場料を払えば誰でもステージに上がって自由に言いたいことを言えるスタンダップのステージ。そこでほとんど毎晩、英語で5分のネタをやってます。

だいたい朝は8時に起きて、コーヒーショップでネタを作って、ChatGTPで英訳。それをアメリカに住んでる友だちに送って微調整してから、丸暗記する感じで。

――日本では息をもつかせぬマシンガントークが村本さんの代名詞でしたが、英語でのネタ披露は苦労されてますか。

そうね、かなり。丸暗記って、定着するまでに数日かかるときもあって。1回目は一番ひどくて、舞台の上でもがんばって思い出しながらなんとかしゃべってる感じ。そしてそれを、お客さんも固唾を呑んで見守るみたいな。優しい眼差しで見てくれる人もいれば、興味なさげにスマホ見てる人もいるけど。

――回を重ねるごとに、徐々に定着していく感じですか。

そうなんだけど、ようやくペラペラ話せるようになったところで、全くウケなかったりするわけ。要は、語学力の問題じゃなくて、シンプルにネタの問題だったと。そういうときに「この1週間なんやったん…」って落ち込んだりします。

――アメリカのコメディクラブに立たれて、ここが一番上手くいってない、ここが悔しいと思うことは何ですか?

うーん、なんやろね…。しゃべれないのに、必死でがんばってるから送られる拍手とかは、ちょっと屈辱的ですね。しゃべり方が下手だからかわいいと思われるとか。

もしも翼があったら、じゃないですけど、俺がペラペラしゃべれてたら、もっともっといいリズムでいけて、笑わせられるのに…とかってことですかね。頭の中では自由に飛び回れるんですけど、いざ口に出すと「アイ、アム、ア…」となってしまう感じがね。

ただ、ウケないこともそうだけど、お客さんが笑っていないのを、自分が無視できないということも悔しいというか。

――どういうことですか。

日本のお笑いって、万人を笑わせないといけないっていう概念が色濃くあるように思ってて。例えばバラエティー番組でも、誰も笑わなかったら「スベった」って言われる。つまりお客さんが「ウケた」かどうかが重要視されている。

でもアメリカのコメディは、ウケなかろうが、みんな自分が言いたいことを言って、それで面白いと思ってくれた人が集まってファンになってくれる。そもそも「ウケる」も「スベる」もないんですよ。

この価値観って、日本にいたら、特によしもとにいたらなかなか覆せないですよ。毎日、「ウケたやん」「スベったやん」が飛び交ってるわけですから。

だから早く、毎回、目の前のことに合わせなくてもいいという自分になりたい。もっと自分勝手で、ワンマンでいいということを、日本から出てきて感じてます。

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「日本人」というキャラクターを簡単に使いたくない

――アメリカのスタンダップコメディには、ジョークにしていいことと悪いことの暗黙のルールみたいなものは、共通認識としてあるんですか?

それについていうと、「アメリカでは…」と語れないくらい、コメディの世界も分断しているのを感じますね。

ジョー・ローガンという有名な、ポッドキャストの登録者数もめちゃくちゃ多いトランプ支持者のコメディアンがいて。彼はテキサスのほうにある「コメディ・マザーシップ」というコメディクラブのオーナーなんだけど、そこにはふたつの部屋があって。ひとつが「ファット・マン」、もうひとつが「リトル・ボーイ」。つまり長崎と広島に投下されたふたつの原爆の名前が付けられてるのよ。

そういうのを見ると、これはやったろう、こいつらにはガツンと言ってやろう、というモードになるんだけど、そのコメディクラブでは、トランスジェンダーの人のこともめっちゃネタにする。なんなら傷つくほうが悪いっていうくらいのスタンスで。

その一方で、ニューヨークのコメディクラブなんかだと、ポリティカルコレクトネスを気にしながら、すごくリベラルにやってる。だからアメリカのコメディも、トランプとカマラの大統領選が示すように、一筋縄では語れないんだよね。

――これまで村本さんは、ネタの中で日本社会におけるマイノリティーの存在に触れることが多かったですよね。今度はアメリカという多民族社会の中で、自身がマイノリティーな存在になった。そのことがネタ作りにどう影響していますか?

日本人がアメリカに行くと、みんな「日本人である」ということを使いたがるねん。日本とアメリカのわかりやすい違いとか、それぞれの固定観念とかをネタにする。要は「こういうのウケるでしょ」ってやつです。でも僕はそういう、自分のルーツを使ったものはなるべく削ってる。

この前、知りあいのシェフともそういう話になったんだけど、例えばキャビアとフォアグラとか、マグロにウニとか、確かに簡単にお客さんに喜ばれるけど、そういうベタなことはしたくないよねって。

笑いの取り方も、「日本人」というキャラクターを使えば手っ取り早いけど、逆にそこを削ぎ落していくと、「自分って一体何者なんだろう」っていう問いにぶつかる。言うことがなくなって、なくなって、本当にしんどくなったときに、僕はこう思う、っていう自分特有の視点が見えてきたりするもので。

だから日本にいて同じことを繰り返すことよりも、違う文化の中で、少数派として、コメディアンとして、自分が何者なのかを確認する作業、突き詰めていく作業をしていったときに、面白い芸人になれるんじゃないかなって。

取材・文/金愛香

に続く

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詳細はこちら https://live.yoshimoto.co.jp/live/live-14706/