西脇さんとのコラボがいちばん強力じゃないか

―ファンとしては谷村有美作詞作曲のシングルが増えていく喜びがあったなか、「がんばれブロークン・ハート」は西脇さんの作曲で、それまでにないファンキーな谷村有美が衝撃でした。

谷村 デモテープを聴いた時に「もらった!」と思いました。シングル「ガラスの午前4時」から横内さんが担当になって、次の「Boy Friend」の2曲はがっつりマンツーマンで、ピアノで弾いて作っていたんですね。それはそれで好きだったんですけど、これを聴いた時に「自分が行きたい世界はここ!」と思ったんです。「西脇さん、さすが!」と思いながらも自分の血のように感じていました。

西脇 ストックではなく書き下ろしました。音楽的にいうとベースだけ聴くとファンクだし、ポップでキュートなふりをしたがっつりAORみたいな(笑)。あとチャチャチャのリズムが内包されていたり。僕はユーミンさんが好きなのですが、彼女はフックにしたいところで意図的にペンタトニックスケールを使うんですよ。(アレクサンドル・)スクリャービンというクラシックの作曲家もそういうところがあるんですけど。だから「がんばれブロークン・ハート」はサビでペンタトニック全振りしてるんですよ(笑)。

谷村 確かに。本当だ!

西脇 結構あざとく作ったかもしれない(笑)。いいメロディは跳躍が多かったりして決して歌い易くはなかったりするでしょう? とにかくヒット曲というかみんなにウケる曲を作りたかった。有美ちゃんに歌ってもらうからには成果を挙げたいと思っていたし、そういう戦略はあったかもしれないですね。

―この衝撃が3rdアルバム『Hear』に発展していき、さらなるコラボの境地になったのが、『PRISM』と『愛は元気です。』でした。

横内 その後の彼女の作品の一つの柱になったと思います。師事していたベテランプロデューサーの伊藤八十八(※3)さんが、「横内の音ができたな」と言ってくださったのがうれしかったですね。僕にとっても一つのマイルストーンというか、そういう作品なんですよ。

―『Hear』まで有美さんのブレーンになる可能性のある方がたくさんいらしたなか、とりわけ西脇さんを起用したのはなぜですか?

横内 当時はまだ試行錯誤だったと思うんです。すごく早い期間で谷村さんに成長してほしかったし、させなきゃいけない使命感があったなかで、いろんな方とのコラボレーションは成長に役に立つだろうと。そのなかで彼女の世界観、声がどんどん収斂(しゅうれん)されていく過程で「やっぱり西脇さんとのコラボがいちばん強力なんじゃないか」という気持ちが固まっていったんです。

谷村 状況的にブレイクしないといけない使命感がすごくありました。タイアップをいただく、番組もたくさんもたせていただくという、切々と売れなきゃいけないという圧の下で、『Face』は一つきちんとできた実感があって。『Face』は当時(CBS)ソニーですごく評価していただいて、ヒット賞のトロフィを初めていただきました。次の『Hear』は、私が何を言いたいのか伝えたいのか、この気持ちを聞いてほしいという意味で名づけたんです。じゃあ次はという時に横内さんから「西脇さん一本でいきたいんだけど…」と言われて、「いよいよいきますか!」みたいな感じでしたよね。フュージョン好きだし、そういう世界でいこうというので『PRISM』ができました。

西脇 めちゃくちゃ楽しかったですよ。そういう想いしかないです。

谷村 いつも「めっちゃいい! 最高!」って喜んでた(笑)。

谷村有美 ディスコグラフィ

2nd 『Face』( ‘88.9.1)

3rd 『Hear』( ‘89.6.21)

4th 『PRISM』( ‘90.5.12)

5th 『愛は元気です。』( ‘91.5.15)

mini album『White Songs』( ‘91.12.12)

6th 『Docile』( ‘92.12.12)

>>後編につづく

【谷村有美最新INFORMATION】

https://www.sonymusic.co.jp/artist/YumiTanimura/info/557181

@tanimurayumi ブログwww.yumi-tanimura.com 谷村有美 official YouTube channel @yumitanimura_official

【西脇辰弥最新INFORMATIONはこちらより】

@xixiechenmi 公式サイトhttps://nishiwakitatsuya.com

(出典/「昭和50年男 2024年1月号 Vol.026」)