NisekoというJapanブランドの誇りを
鎌田さんのスキーとニセコ愛は相当なものであることが、その笑顔から伝わってくる。
「北海道らしさ、や、こんなにスキー・スノーボードが生活に溶け込んで盛んなニセコならでは、をフィーチャーして発信したい。どうすればそれをモノづくりにうまく落とし込んでいけるか? 考えたんです。
それは2つあって。ひとつは材料。北海道で製作するのに素材が輸入品じゃもったいないと思ったんです。自然好きだったこともあって、野生動物をめぐる話題や社会課題に常に関心がありました。近年、エゾシカの個体数が増えすぎていて、駆除されても廃棄されるだけで、有効活用できていない、それに目をつけた。エゾシカの革を使ってグローブを作っていこうと考えたんです。
もうひとつは、ニセコではすごくスキー・スノーボードが好きな人が滑っている。そういう人達に囲まれながら、こういうグローブが欲しい、ああいうのが欲しい、と一緒に作っていけば、自然と求められるものになっていくんじゃないかって。毎日滑っていると、自然とグローブ談義になって、もっとこうしたらいいんじゃない、という意見やアイデアがたくさん入ってきて、それがプロダクトになっていく。
「ニセコグローブ」っていう名前にしたのも、ニセコという土地で創っていることもそうだけど、ニセコ好きな人たちと一緒に作るという意味も込めているんです。ニセコで暮らし、ニセコで毎日滑り、ニセコの人々と一緒に。そういうことを丁寧にやっていけばいいかなって」
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エゾシカの革・これは使えるぞ!
Niseko Gloveの最たる特徴、それはグローブに使用している本革はすべてエゾシカの革だけであることだ。そもそもシカの革というのは一体どんなものなのか? アウトドアシーンでよく使われるのは、強度や柔らかさのバランス、摩耗性や耐久性、防水性などの点から、もっぱら牛や山羊だ。では、鹿はどうか。
「僕も鹿革の耐久性がどれくらいもつのか、最初は半信半疑で自分で使ってみました。そして、周りのいろんな人に1年間テストしてもらって、結果“これ使えるぞ”ってなったんです。はじめは、鹿革だけでは厳しかったら、問題ない部分だけ鹿を使って、他は山羊や牛革を組み合わせればいいと思っていたんです。ところが実際は、思っていた以上に十分な耐久性があって、柔らかくて、しなやかかさもあって、おまけに軽い。つけた人にはみんな驚かれますね。牛とか山羊に比べてまったく引けをとらない。
一般的なグローブでは、牛革も山羊革も厚みを調整して使うんです。どうしても薄い革の状態で使うので、早く摩耗して穴が開いてしまい、1年間で3つも4つも使うことになる、とガイドさんやライダーはよくこぼしています。
でも、僕はエゾシカの革を自然の厚みのまま使っています。なので一般的なグローブに比べて厚さは1.5~2倍の厚みでしょう。確かに肉厚な感じはあります。でも、とても革がしなやかなので、厚さを気にせず使えるんです。厚みがあるぶん、耐久性も十分。もともと油分を多く含む革ですから、濡れてもしなやかさが失われません。北海道の過酷な自然環境で生きたからこその性質かもしれません。まさに雪山でタフに使われるスノーグローブにぴったりなんです。もちろん、デメリットもなくはない。野生動物ゆえに傷が多いなど、作り手として悩ましい面もあります。でも、それ以上のメリットがあるので、もうエゾシカ1本で十分いけるなって確信をもってやっていますね。
エゾシカの良さが認められ、もっと広がっていけば、ハンターさんたちの仕事にもつながる。いま、ハンターも少なくなっていて駆除しきれないんです。これまで単に捨てられていたものに価値がついて、人が大切に使ってくれるモノに生まれ変わる。それがハンターにも還元されていく。今風に言えば、これってサステナブルだなって」
「Niseko Gloveの小さなSDGs」と鎌田さんは笑ったが、エゾシカが有効活用されることでハンターが増えれば、獣害も緩和し、生態系もバランスを維持していく。美しい自然のなかで、みんなの楽しい時間がいつまでも続いていくことになる、これぞ大きな持続可能性ではないか。