1921年のノーベル物理学賞を受賞したアインシュタイン/ Credit:Kakimochi
20世紀を代表する科学者アインシュタイン。
彼は物理学において重要な成果を数多く発表し、1921年のノーベル物理学賞を受賞しています。
ほとんどの人はこの受賞理由を「相対性理論」の発表だと思っているかもしれません。しかし、その受賞の主な理由となったのは「光電効果の法則の発見と光量子仮説」という量子力学における成果でした。
そう、実はアインシュタインは相対性理論ではノーベル物理学賞を受賞していないのです。
光電効果とは、一体どのような現象なのでしょうか。
そして、なぜ相対性理論は受賞に至らなかったのでしょうか。
その背景には、アインシュタインの成果をめぐる対立がありました。
※本記事は『身の回りにあるノーベル賞がよくわかる本 しろねこと学ぶ生理学・医学賞、物理学賞、化学賞』(翔泳社)の著者かきもち氏より、本書の内容の一部を抜粋・編集して寄稿いただいたものです。
目次
物理学史上の巨人、アインシュタインアインシュタインのノーベル賞受賞研究受賞者からの厳しい批判
物理学史上の巨人、アインシュタイン
はじめに、アインシュタインの経歴について簡単におさらいしておきましょう。
アインシュタインは1879年、ドイツに生まれました。チューリヒ工科大学(のちにスイス工科大学に改称)に入学し、講義を受けるよりももっぱら理論物理学者の著作を読む生活を送りました。
スイス工科大学を卒業後は1902年スイスの首都ベルンにある特許局に就職。働きながら物理学の研究を行いました。
1905年、26歳のアインシュタインは物理学の基礎にかかわる重要な論文を次々と発表します。論文の数は5編にのぼり、この年は「奇跡の年」と呼ばれるようになりました。
この年の成果のうち特に有名なものが、相対性理論です。
時間と空間を支配する法則
奇跡の年の6月30日、アインシュタインの特殊相対性理論に関する論文が受理されました。
特殊相対性理論は、古典力学と電磁気学の矛盾を解決するために生まれた、光と時間、空間についての理論です。
観測者の運動の速度によって時間の遅れや物体の縮みが発生するなど、日常感覚とは異なる不思議な現象を導き出します。
また、エネルギーと質量の関係を示す有名な式 “E=mc2” の元であることでも知られています。
さらに1915年から1916年、アインシュタインは特殊相対性理論を拡張させた一般相対性理論を発表しました。
一般相対性理論は、重力と時間・空間についての理論です。重力の本質は時間・空間の曲がりであるとしました。
重力が強い場所では時間が遅れる、空間が曲がることで光の進行方向さえも曲げられると予言しました。
アインシュタインの相対性理論。時間の遅れや物体の縮み、光の進行方向が曲がるなどの現象を予言した/Credit:Kakimochi
1919年には、恒星の発する光が太陽周辺の重力によって曲げられていると観測によって実証され、アインシュタインは一躍時の人となりました。
こうして人類の常識を覆す理論を発表したアインシュタインは世界に大きな衝撃を与えます。
1922年には相対性理論に関する講演を行うため、日本にも訪れました。アインシュタインがノーベル賞受賞の知らせを受け取ったのは、日本へ向かう船の中でした。
1921年のノーベル物理学賞発表は、あることが理由で1922年まで遅れていたのです。
受賞対象は相対性理論かと思いきや、なんと奇跡の年に生まれた別の研究成果でした。
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アインシュタインのノーベル賞受賞研究
ノーベル賞の公式ウェブサイトでは、アインシュタインの受賞理由が端的に述べられています。
The Nobel Prize in Physics 1921 was awarded to Albert Einstein “for his services to Theoretical Physics, and especially for his discovery of the law of the photoelectric effect”
受賞理由を直訳すると「理論物理学への貢献、特に光電効果の法則の発見に対して」となります。
ここでは光電効果とはどんな現象か、アインシュタインはどのように理論物理学に貢献したのか、少しご紹介しましょう。
光電効果とは、金属に光を当てたとき金属から電子が飛び出す現象のことです。金属板と電流計を組み合わせた装置で観察できます。
あらかじめ金属板に電子を与えておき、この金属板に光を当てます。
電流は電子の流れですから、電流計を見ると、金属板から電子が流れ出ていることがわかります。
光電効果のイメージ。金属に光を当てると、電子が飛び出す/Credit:Kakimochi
この実験で金属板に当てる光を強くすると、出てくる電子もより大きなエネルギーをもちそうです。
ところが、出てくる電子の数は光の強さに比例して増えるけれど、その最大エネルギーは変化しないことがわかっていました。こうした結果は、光を波とする考えでは説明できません。
1905年、アインシュタインは物理学年報(Annalen der Physik)に、光量子仮説についての論文を発表しました。
光量子仮説とは、光はエネルギーをもった粒子(光量子)であるとする仮説のことです。
17世紀頃から、光を波であるとする波動説と光を粒子とする粒子説が登場し、論争が繰り返されていました。光量子仮説は、光の粒子性を導入し体現する説となりました。
アインシュタインはこの仮説を用いて光電効果の観測事実をよく説明し、金属板から出てくる電子のエネルギーを式で表すことができました。
これを光電効果の法則といいます。
光量子仮説の「量子」は、19世紀末に物体が放つ電磁波に関する研究で登場した概念です。
アインシュタインは光だけでなく、固体中の原子の振動にも量子の考え方を応用して理論上の問題を解決し、量子をベースとした物理学、量子力学のスタートを切りました。
光電効果の法則。金属板によって、仕事関数Wが異なる/Credit:Kakimochi