第89回アカデミー賞の長編アニメーション映画賞と歌曲賞にノミネートされ、世界中に感動と勇気を与えた、海に選ばれた少女モアナが繰り広げる冒険を描いた『モアナと伝説の海』(16)の続編、ディズニー・アニメーション最新作『モアナと伝説の海2』(公開中)。壮大な冒険の末に故郷の島を救ってから3年。愛する家族や島の仲間たちに囲まれながら、以前は禁じられていた海へと航海に繰りだす日々を送る、少し大人になったモアナの姿が描かれる。
前作から続投し、7年ぶりに演じた主人公モアナを演じた屋比久知奈 / 撮影/野崎航正
「かつて人々は海でつながっていたが、人間を憎む神によって引き裂かれてしまった。海の果てにある島にたどり着けば呪いが解け、世界は再びひとつになる」という伝説を知ったモアナは、人々の絆を取り戻すために立ち上がることを決意。風と海を司る半神半人のマウイや島の新たな仲間たちと共に、危険に満ちた冒険の旅に出ることとなる。
■「モアナが走っているだけで成長を感じ取れたんです」
前作に続き、日本語吹替版でモアナ役を務める屋比久知奈は、「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」「ジェーン・エア」など数々のミュージカル作品に出演。続編は3年後の世界が舞台となるが、屋比久自身は7年という月日を過ごし、表現者としての経験を重ねてきた。
前作から3年後を舞台に、モアナの新たな冒険を描きだす / [c] 2024 Disney. All Rights Reserved.
「モアナの成長を声でどう表現できるのか。声を低くしてみようかなとか、話し方を変えてみようかなとか、いろいろと考えたのですが、オリジナルの映像を観た時に、モアナが走っているだけで成長を感じ取れたんです。(オリジナル版のモアナ役を演じている)アウリィ(・クラヴァーリョ)さん自身の成長も作品に反映されている気もしました。その瞬間、私が変に成長を意識した表現をするよりも、モアナというキャラクターが持っている素朴で優しくて常に全力投球で、ちょっと不器用だけどなにかのために向かっていく、飛び込んでいく、そういった彼女の魅力、キャラクター性のようなものは作り込まないほうがいいのかなと思いました」と、成長したモアナとの再会で感じたことを明かす。
■「自分の成長を出しすぎないように意識しながらも、自然な気持ちで収録に挑むことができました」
走っているだけで成長を感じたとのこと / [c] 2024 Disney. All Rights Reserved.
前作では厳しいアフレコに立ち向かった。「当時、なにもわからないままも全力でやったモアナというキャラクターが、そのまま成長しているのであれば、彼女の一生懸命さのような“姿勢”を変えないほうがいい。成長を意識しすぎずに、と心掛けていました。私自身にとって実際は7年経っているので、意識しなくてもなにか出てくるものがあるはず。それがモアナの成長になにかしら反映されているはず。そんな自信を持とうと考えました」と、屋比久自身の7年の成長と自信も滲ませた。「7年間の間に、歌にもセリフにも自身の経験で得たものが出てしまうことはありました。例えば、ちょっと低い声も出るようになったし、ドスの効いた声も出せるようになっています(笑)。でも、そういった部分は監督が『モアナから離れてるよ〜(笑)』など丁寧に細かく指摘してくださったので、自分の成長を出しすぎないように意識しながらも、自然な気持ちで収録に挑むことができました」と成長した同じ役との向き合い方の工夫や心構えを教えてくれた。
モアナが操縦するカヌーもレベルアップ!海のうえでスピード感満載の動きにも注目 / [c] 2024 Disney. All Rights Reserved.
「前作よりも落ち着いてブースに向かうことができたのかな…」とアフレコ時の心境を振り返った屋比久は、前作では台本の読み方すらわからなかったと苦笑い。「前作ではわからないことだらけで悔しい想いをしたけれど、今回は台本の読み方も、いまの自分の表現の幅も理解できている。準備できることもたくさんあったし、いままでやってきたことへの自信もありました。だからある意味落ち着いてできたのかな、と思っています」としながらも、マイク前に立つと当時の気持ちを思いだし、「めちゃくちゃ緊張しました」と正直に打ち明ける。「本当に独特の緊張感があるんですよね。舞台の上では常に誰かがいて、その人たちとの交流で生まれるなにかに慣れていた部分もあったから、久しぶりに自分1人だけで収録する環境がある意味新鮮でした。舞台で身につけた言葉の発し方やイメージの仕方、自分の気持ちの乗せ方などには、技術を得たからこそというのもあるし、1人での収録という場所だからこそ、集中できていた気がします」と満ち足りた表情を見せた。
■「楽曲にも背中を押してもらえる感じがすごくあって、助けられた気がしています」
モアナとマウイ、さらに新しい仲間たちはどんな困難を乗り越えるのか / [c] 2024 Disney. All Rights Reserved.
進化を遂げたモアナを象徴する楽曲「ビヨンド ~越えてゆこう~」の歌唱には苦労したという。「楽曲としてもすごく繊細。特に前半部分はとても繊細で、音の動きも含めての難しさを感じました。オリジナルの表現に寄り添いつつ日本語で表現するというのもやっぱり難しくて。キーも高かったし、繊細なところから最後に向かってどう盛り上げていくのか、楽曲から発せられるエネルギーをどう持っていくかという流れもスタミナ的なことも含めて大変でした。すごく気合を入れて練習して挑んだ楽曲です」とかなり力が入っていたようだ。
続編を最初に観た時の感想は「モアナ、成長している!」だったとのこと / 撮影/野崎航正
“海の果てさえも、越えてゆこう”という歌詞のように、難しさを感じた楽曲の壁も乗り越えた。「練習と気合いで乗り越えました(笑)。結構高く見える壁を乗り越えるコツって、私の性格的にも最後は気合いだったりするんじゃないかなと思っています。もちろん、努力して練習もするし、いまできるすべてをという気持ちで準備はしましたけど、最終的には気持ちが大事だったんじゃないかな。逆にそこにすごく力があるとも思うし、そういう力はこれまでの舞台をやっていても感じてきたし、今回の『モアナ』でも感じています」とニッコリ。「最終的には己との戦い!」と笑い飛ばし、「何事もそうですけど、自分自身が一番邪魔をすることも、一番背中を押すこともできる。そういった意味では、“わたしはモアナ”というフレーズが入っていることで、楽曲にも背中を押してもらえる感じがすごくあって。そのフレーズを歌っていると自然と気合いが入るし、エネルギーをもらって最後のフレーズに持っていくことができる。今回も楽曲にたくさん助けられた気がしています」。
■「周りとの絆やつながりがモアナの力になって、より強くいられます」
モアナ&シメアの姉妹愛に心掴まれる / [c] 2024 Disney. All Rights Reserved.
モアナが心から愛する3歳の妹シメアの存在も、モアナに自信を与えているように感じられるとし、「シメアと話している時のモアナがすごくお姉ちゃん。心が温かくなるシーンでした」と目を細める。と同時に、いつも頼られる存在であるモアナの新たな一面も見えたそうで、「『私がなんとかしなきゃ!』と自分が責任を持ってやる、やらなきゃいけないって思っている一面が強くなっているような気がしました。誰かに力を借りるのが多分、そんなに上手じゃないのかなとも思ったけれど、そこは、今回一緒に旅をしてくれる新しい仲間たちに救われます。私自身、演じていてすごく救われました。前作とは違う形で成長していくモアナの姿を観ることができたのはうれしかったし、私自身が元気をもらえました。それは前作と変わらなかったことでもあります。周りとの絆やつながりがモアナの力になって、より強くいられる。すごく共感できたし、観てくださる方にも勇気や元気、希望のようなエネルギーを感じてもらえるポイントになっていると思います」と成長したモアナを通して感じられる本作の見どころを挙げた。
【写真を見る】「ビヨンド ~越えてゆこう~」の歌唱で話題の屋比久知奈を撮り下ろし!やる気満々のポーズでニッコリ / 撮影/野崎航正
海と特別な絆で結ばれ、海に愛されているモアナ。『モアナと伝説の海』という作品には屋比久自身も特別な絆を感じていることは言うまでもない。「東京に出てきて“屋比久知奈”として活動していくにあたっての1作目。デビュー作ということだけでも特別なことだけど、作品のテーマやモアナというキャラクター自身にすごく共感できて、身近にも感じられました。沖縄を出て東京に来たタイミング、作品に関わったことで私自身が1つ強くなれた、支えてもらったというのが当時感じていたこと。いま、改めて振り返ると、作品もモアナも自分のなかにずっといて、それが力となり自信にも勇気にもなっていたし、すごく背中を押してもらっていたと改めて実感しています」としみじみ。
モアナは仲間のモニ、ロト、ケレと共に新たな冒険に繰りだす! / [c] 2024 Disney. All Rights Reserved.
ふとした時にモアナの姿やセリフ、楽曲も思いだすそうで、「常に共にしてきた私のコアとなっている存在。そんなすてきな存在に最初に出会えたことは、本当にありがたいし、幸せなことなんだろうって思います」とモアナと共に過ごしたデビューからこれまでの歩みを振り返り、そっと目頭を押さえる場面も。「今後もずっと変わらず、ずっとずっとモアナは自分のなかにいる気がします。モアナに似ていると言われることも多いし、でも、似てないところも含めてモアナが私を引っ張ってくれる気もしています。ずっと大事にしていきたいキャラクターであり、作品です。本当にかけがえのない出会いになりました」と自信に満ちあふれたまっすぐな目で語った。
取材・文/タナカシノブ