日本発の世界的な人気ゲームから誕生したソニックが、いまや映画の分野をも席巻する存在であるのはご存知のとおり。2020年に公開された第1作『ソニック・ザ・ムービー』、2022年公開の第2作『ソニック・ザ・ムービー/ソニック vs ナックルズ』で累計7億2000万ドルの世界興収を上げ、改めてとてつもない人気を証明してみせた。そんな人気シリーズの最新作『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』が、いよいよ12月27日(金)に劇場公開される。
ゲームファンにとってうれしいのは、2001年に発売されたゲーム「ソニック・アドベンチャー2」に初登場して以来、世界中のソニックファンを熱狂させている“闇のダークヒーロー”シャドウがスクリーンに初登場すること。そして映画ファンにとってうれしいのは、この声をキアヌ・リーブスが担当することだ。思い返せば、『DC がんばれ!スーパーペット』(22)でバットマンの声を担当したこともあり、ダークヒーローはお手のもの!?ともかく、ここが見逃せない点の一つであることは間違いない。そんなキアヌ/シャドウについて考察してみよう。
■最新作の舞台は、ついにソニックたちの母国である日本に!
【写真を見る】まるで「ジョン・ウィック」のキアヌ風な、カッコいいシャドウの姿も! / [c] 2024 PARAMOUNT PICTURES AND SEGA OF AMERICA, INC.
まずは『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』について簡単に触れておきたい。超音速で走るハリネズミ、ソニックと仲間のナックルズ、テイルスが今回バトルする相手は、まさしくシャドウ。しかもバトルフィールドはシリーズで初めてとなる日本に設定されているのだから、展開が大いに気になる。東京、渋谷のスクランブル交差点で繰り広げられる戦いの行方やいかに?また、ジム・キャリーが演じた前2作のヴィラン、ドクター・ロボトニックも再登場するが、今回は単純な悪役ではないようで、ソニックとの“共闘”もあるという。そのうえ、これまたキャリーが演じるドクターの祖父が登場。この老人こそがシャドウの生みの親というから、本作における重要なキャラクターとなりそうだ。
ドクター・ロボトニックとその祖父ジェラルドをジム・キャリーが一人二役で演じる / [c] 2024 PARAMOUNT PICTURES AND SEGA OF AMERICA, INC.
キャリー以外の実写キャストは、ソニックの親友である保安官トムを演じたジェームズ・マースデンと、その妻マディを演じるティカ・サンプターが再々出演を果たす。日本語吹替版のボイスキャストは、ソニック役の中川大志、ナックルズ役の木村昴、テイルス役の広橋涼が再共演。そして注目のシャドウの吹替えには、キアヌはもちろんトム・クルーズの吹替えでもおなじみの森川智之が務める。
■人気キャラクター、シャドウの声優にキアヌ・リーブスが大抜擢!
大阪が舞台の1つに選ばれた『ジョン・ウィック:コンセクエンス』 / [c]Everett Collection/AFLO
先述したとおり、本作の主要な舞台は日本だが、キアヌも大の親日家として知られている。日本のアニメを愛し、日本が世界に誇るアクション俳優、千葉真一を敬愛。映画のキャンペーンや自身のバンド、ドッグスターの公演で来日しているほか、プライベートでもたびたび遊びに来ているようで、そのたびに目撃情報がSNS上を駆けめぐる。セレブのように取り巻きを引き連れることなく普通にラーメン屋で食事をしていたり、ファンに声をかけられた際には気さくに写真撮影に応じたりといった“いい人”ぶりは、あまりに有名。ちなみに近作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(23)は大阪が舞台の一つになっていた。そんなキアヌだから、日本生まれのゲームであるソニックに愛着を抱くのは必然だろう。
ダークヒーロー、シャドウの悲しい過去とは…? / [c] 2024 PARAMOUNT PICTURES AND SEGA OF AMERICA, INC.
彼が演じるシャドウは、ゲームのなかでもソニックと人気を二分するキャラクター。見かけはソニックの色違いで、ソニックが“陽”ならシャドウはその名のとおり“陰”と言える。ソニックが仲間と家族的な関係を築いていくのに対して、シャドウは復讐に取り憑かれた完全な一匹狼。その背景には、彼と誰よりも親しかった少女マリアとの、悲痛なまでの悲しい別れがあった。一匹狼だから誰かの助言に耳を貸すことはない。ソニックに匹敵するスピード&チャージに裏打ちされた強大な戦闘スキルは、地球の破壊という目的に使われるのだ。救いがあるとすれば、マリアとのよき思い出だけだろう。そんな内面の複雑さによって、ゲーム版では若年層よりも年長のファンに熱烈な支持を受けている。人生いろいろであることを知る大人には、天真爛漫なソニックよりもシャドウの心情のほうがフィットする!?
■シャドウとキアヌには共通点が…
公園のベンチで食事をしている姿が「Sad Keanu」として話題に! / [c]SPLASH/AFLO
そんなシャドウとキアヌには不思議な共通点がある。キアヌは幼いころに両親の離婚を経験して以来、複雑な家庭環境で育っている。ハイスクールは4度転校した挙句に中退し、実妹は白血病で闘病生活を送っていた。人生いろいろ、をまさに子どものころから体験してきた。昨今はベンチでポツンとぼっちメシをしていた姿を写真に収められ、“サッド・キアヌ”と呼ばれてネットミームと化していたが、一方では地下鉄で大きな荷物を持っていた女性に席を譲ったり、ファンの結婚式にサプライズで駆けつけたりなどの“いい人伝説”の更新もなされている。寡黙で孤独、しかしそのなかに優しさがにじむ人柄は、同じくサッドな過去を持つシャドウそのものなのだ。
カンフーアクションが取り入れられた『マトリックス』 / [c]Everett Collection/AFLO
聖人キアヌは、言うまでもなく俳優の仕事にも常に全力投球する。『マトリックス』(99)でカンフーの動きをマスターし、肉体的にハードなアクションに挑んだのは有名なエピソード。今回の新作では、監督によると、シャドウを理解するために入念なリサーチを重ねたばかりか、ゲーム版のファンを裏切らないために、同じセリフを何通りも試したというからさすがと言うほかない。「ゲームでは複数の俳優がシャドウの声を演じてきたので、それを踏まえたうえで、映画のほかのキャラクターの声と調和するような、私なりのシャドウを演じようとしました。声のトーンと感情表現のバランスを見つけるのはとても大変でした」と話すように、キアヌは全体のバランスを考えながら、彼なりのシャドウを作り上げていった。そもそも実写の出演作を振り返っても、『JM』(95)や『コンスタンティン』(05)、『レプリカズ』(19)、そして近年の代表作「ジョン・ウィック」シリーズなど孤独なアウトローを演じること多数。そういう点でもシャドウはキアヌにとって、まさしくハマリ役なのだ。
愛する家族のレプリカを作ろうとする天才科学者に扮した『レプリカズ』 / [c]Everett Collection/AFLO
『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』ではシャドウの過去の秘密が明かされ、大人にこそ刺さる内容になっている。つまり、ファミリームービーの要素が強かったシリーズ前2作に比べて、大人の観客にも訴えるドラマにグレードアップしたということ。もちろんスペクタクルの醍醐味たっぷりなアクションのスケールも、これまで以上に強化。アニメーションは往々にして子ども向けと見られがちだが、本作にはおれたちのキアヌがいる!イケボで観客を魅了するキアヌの声の妙演と共に、空前絶後の超音速アドベンチャーを体感してほしい。
文/相馬学