フェラーリを去るカルロス・サインツJr.「この4年間、素晴らしいチームの一員であったことを誇りに思う」

 F1最終戦アブダビGPを終えた数時間後、フェラーリのカルロス・サインツJr.は涙をこらえようと苦心していた。パドックにモニターが持ち出され、そこではフェラーリでの4年間を終える彼に、特別な送別のメッセージが流されたためだ。

 この時、サインツJr.はキャップ(最終戦のための特別製!)を後ろ向きに被っており、刻まれた『Grazie Carlos(ありがとうカルロス)』という言葉がよく見えていた。

 2021年に跳ね馬へ加入したサインツJr.の、4年間の旅の終わりだった。

 サインツJr.は今年、シーズンの開幕前にフェラーリのシートを失うことが決まってしまった。7度の世界王者ルイス・ハミルトンの起用をチームが決め、彼はその犠牲となった。

 F1のシートを失うことは、決して生易しいものではない。そしてサインツJr.は彼に対する疑問が間違いだったことを既に証明しているのだから、なおさらだ。フェラーリ加入が明らかになったとき、サインツJr.がシャルル・ルクレールの単なるセカンドドライバー以上の存在になると考えていたものは、少なかった。

 ルクレールは確かに1周のアタックでサインツJr.を上回ってきたが、サインツJr.は互角の戦いを繰り広げ、その才能や決断力、仕事に対する倫理観によって、フレデリック・バスール率いるフェラーリが調子を取り戻していく上で、重要な役割を果たしてきた。

 ルクレールとサインツJr.は最終戦を前にチームメイトをトリビュートしたスペシャルヘルメットを製作するなど、ふたりの関係も悪くない。ハミルトンとの契約チャンスという黒船がなければ、フェラーリもラインアップの維持で満足していただろうことは明らかだ。

 サインツJr.はF1のポッドキャスト『Beyond the Grid』で「人生はジェットコースターのようなものだ」と語り、フェラーリを離れなくてはならなくなった時のことを、次のように続けた。

「オーストラリアGPの表彰台では、父やマネージャー、ガールフレンドもそこに来ていたから、かなり感情的になっていたのを覚えている。母のことも当然考えていた。みんな僕が冬の間苦しんでいたのを見ていたからね。苦しんだといっても、密室でひとり泣いていたということじゃなく、真面目に傷ついてしまったということだ」

「予想もしていなかったからね。傷つきもする。あんなニュースを受けとる準備はできていなかった。しばらくの間、ちょっとショックを受けてしまって、そのあと気持ちを立て直してトレーニングに励んだんだ。だけどオーストラリアで勝ったあとは、厳しい瞬間を乗り越えるための強さを与えてくれた、周囲にいてくれたひとたちの存在に、どれくらい恵まれていたのかを理解したのを覚えている」

 そしてサインツJr.はシート喪失に怒りを抱いていたことを認めつつ、時間が経つにつれて、フェラーリによる決断を受け入れるようになったと語った。

「ここに座りながら、そんなことはなかったと言うこともできるけど、あのニュースを聞かされた時は頭にきていたんだ。理解できないし、罵りもする。人生全てが酷いものだと感じたりもする。理解できないんだからね。でも時間が癒やしてくれるんだ」

「ルイス・ハミルトンが7度の世界王者で、史上最高かどうかはともかく、ベストドライバーのひとりに数えられるドライバーなんだということは理解している。そして、そのための犠牲となるドライバーのうちのひとりにならないといけなかったんだ。シャルルがそうなることは無かっただろうというのも分かる。彼はジュニアドライバーのころから、フェラーリのプロジェクトで過ごしてきたんだ」

「だから僕が交代しなくちゃならないのは最初から理解できた。当時はもちろん賛成はできなかったけどね。でも最終的にはそれを受け入れて、それで終わりだ。(チーム代表とCEOに)自分の考えを伝えて、僕は先に進みフェラーリのためにベストを尽くすと約束した」

 シート喪失後、優勝を狙えるような他のチームのシートに空きがあれば、サインツJr.はもっと簡単に前に進んでいくことができただろう。しかしマクラーレンのシートは確定済みで、レッドブルもメルセデスも彼に興味は示さなかった。

 そこでサインツJr.は、再建中であり優勝が当面の目標ではないことを認めたうえでウイリアムズとの契約を選択。アブダビGP終了後のポストシーズンテストでサインツJr.は、真っ白なウェアに身を包み、ウイリアムズでの初ドライブを終えている。

「僕はレッドブルの状況にはフィットしなかったと思う」と、サインツJr.は言う。

「彼らは6ヵ月間にわたって僕を選べたけど、そうすることはなかった。それはシンプルに、彼らが必要としているタイプのドライバーではなかったからだと思う。それについては全く問題ないよ。12月まで待たなかったことも、チャンスを逃したとは思っていないんだ。(ウイリアムズ代表の)ジェームス(ボウルズ)については、僕がどれだけ必要とされているのかを説明するのも難しいけど、彼らは僕を口説くのに素晴らしい仕事をした」

 とはいえ、サインツJr.も終盤戦はセンチメンタルな気持ちに苛まれたようだ。特に彼にとって最後のフェラーリでの勝利となったメキシコシティGPのあとは、それが現れていた。

「来年、フェラーリはチャンピオンシップを争えるかもしれないのに、僕はそのチャンスを得られないというのは、少しほろ苦い気持ちにさせられるよ」

 当時サインツJr.はそう語っていた。

「モチベーションを少し失ってしまうのは、簡単に起こり得ることだとおもう。でもなんとか自分を保って、コンストラクターズタイトルを勝ち取るためにできる限りチームを助けようとしていることを、誇りに思う。それがパーフェクトな別れ方になるからね」

 最終的にフェラーリはマクラーレンに14ポイント差で敗北し、コンストラクターズランキング2位で終了した。しかしサインツJr.はフェラーリで過ごした期間に満足して去ることができている様子だ。

「インラップにエンジニアが無線で語りかけてくれたのはエモーショナルな瞬間だった」

「それと同時に、この4年間をこの素晴らしいチームの一員として過ごすことができて、とても嬉しく思うよ。初めてのレース優勝にポールポジション、表彰台に立つ機会に恵まれた」

「ちゃんとしたクルマがあれば、表彰台や優勝争いが僕にはできるんだと、皆にも自分にも証明することができた」