決定的なマイナス点
もちろん、このレンズにもいくつか注意点が存在する。
フロントヘビーなウェイトバランスは、特に長時間の撮影で負担を感じやすいだろう。マウントのかたつきも気になる人には煩わしいに違いない。
電子シャッターでの使用ではローリングシャッター現象が顕著で、ストロボ撮影との相性も良いとは言えない。この点については、撮影において致命的とも言えるわけで、具体的に用途を限定することになる。
では、その限定された用途以外においてはどうかと聞かれれば、ためらいなく最高であると評したい。
動きの少ない被写体に対するスナップやポートレートにおいては素晴らしい描写をみせてくれる。
最短撮影距離で撮影を試みた時には十分すぎるほどに寄ることもでき、体感としては数値以上だ。
嬉しい誤算だったのは、苦手かもしれないと思った暗所やローライト環境下においても開放から安定した色彩描写が得られたことだ。絞り開放F1.6の明るさと合わせて撮影の自由度があがるだろう。
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総合評価
2,5/90Vをはじめ、第二世代に入ったXCDレンズがどれも非常に優れた性能を誇る中、その端正でクセのないクリアな描写にどこか物足りなさを感じていたのも事実。
Speedmaster 80mm F1.6は、本当は埋めたいはずの渇望する欲求に対して、独自性と描写力を提供してくれる一本だった。
稚拙ながらもあえて言葉にするなら、クリアでクリーンな純正レンズに対して、こくのあるまろやかな深みと言える。
このSpeedmaster 80mm F1.6は、Hasselblad X2Dを所有する静かに淡々と理性的な狩りをつづける猛者どもに、写欲という本能を呼び覚ます危険な存在なのかもしれない。
「このレンズでしか狩れない獲物は確かに存在した」
手にした誰もがそう口にすることを、わたしは決して疑わない。
宮下直樹(TERMINAL81 FILM)|プロフィール
フリーランスのフォトグラファー・シネマトグラファー
写真・映像、ドキュメンタリーから空撮まで。
視覚表現の垣根を超えた小さな物語を縦横無尽に紡ぐ。
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