20トンプレスでも無傷なガラス製の物体「オランダの涙」 / Credit:Wikipedia Commons

銃弾で撃っても、プレス機で加圧されても壊れない、涙のような形をした謎のガラス。

このガラスは、「オランダの涙」もしくは、「ルパートの滴」と呼ばれる物体です。

しかし、このオランダの涙は尻尾のような部分を折ると全体が砕け散ってしまいます。

極端な頑丈さと、明確な弱点を持つこの不思議なガラスはなんなのでしょう?

今回はなぜこのガラスがこれほど頑丈なのか、また、なぜ尻尾部分を折ると全体が爆発的に破砕するのか解説します。

目次

プレス機に打ち勝つ「オランダの涙」オランダの涙が頑丈な理由尻尾を折ると全体が粉々になる

プレス機に打ち勝つ「オランダの涙」


オランダの涙(ルパートの滴) / Credit:Wikipedia Commons

「オランダの涙」とは、オタマジャクシや涙のような形のガラス製の物体です。

17世紀のヨーロッパでは既にその存在が知られており、1661年にイギリスで行われた実験に立ち会ったカンバーランド公ルパートにちなんで、「プリンス・ルパートの滴」「ルパートの滴」とも呼ばれます。

このオランダの涙は、私たちの想像を絶するほど頑丈なことで有名であり、SNSでは数々の実験動画が共有されています。

例えば有名な動画では、オランダの涙がプレス機で加圧される様子が映し出されています。

どんなものでも簡単に圧壊してしまうプレス機ですが、オランダの涙は、なんと20トンものプレスでも無傷です。

それどころか、プレス機の方がへこんでしまう結果に終わっています。

では、オランダの涙は、どうしてこんなにも頑丈なのでしょうか?

この驚異的な頑丈さは、オランダの涙の作成方法から理解できます。

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オランダの涙が頑丈な理由

オランダの涙の作成方法は簡単です。

ガラスをバーナーなどで熱して溶かし、その溶けたガラス(溶融ガラス)を冷たい水に垂らすだけです。

水によって冷やされたガラスは、自然に涙型に固まります。

では、どうして熱したガラスを冷やすだけで頑丈になるのでしょうか。

それの秘密は冷却過程にあります。

溶融ガラスが水に落ちると、まず外側が急激に冷えて固まります。

この時、ガラスの内部はまだ高温のままであり、液体の状態を保っていますが、僅かな間の後、内部も徐々に冷えていき、収縮しようとします。

しかし、外側が既に固まっているため、内部が収縮しようとしても自由に縮むことができません。

内部は収縮しようとしますが、外殻に固定された状態で縮もうとするため、これにより引張応力が生じます。

さらに内部の引張応力と釣り合うように、表面では圧縮応力が発生。

オランダの涙では、これら相反する力がガラス全体を不安定な平衡状態に保っているのです。


オランダの涙。内部の引張応力と釣り合うように表面で圧縮応力が発生。これが頑丈さの秘密 / Credit:Wikipedia Commons

そして表面の圧縮応力は、ガラスの強度を大幅に向上させます。

イギリスのケンブリッジ大学が関わった2016年の研究では、この表面の圧縮応力が400~700MPa(大気圧の4000~7000倍)だと報告されました。

ちなみに、オランダの涙に見られるこの現象は、強化ガラスの製造原理と同じです。

オランダの涙が注目される理由は他にもあります。

それは、これだけ高い強度を誇る物体であるにもかかわらず、簡単に全体を粉砕できるという事実です。