いなべ市の先進性、暮らしやすさの秘密

日本の多くの地方都市は、人口減少、高齢化などの課題を抱えている。しかし、いなべ市にはそういう暗さがなく、学校教育にも多くの予算が割かれ、非常に良い教育が行われているように見える。

実際、iPad導入だけでなく、『保育園から中学校卒業までの給食の無償化』『小学校水泳授業のための屋内温水プールの設置』(温暖化の進行で、夏季の屋外プールでは、熱中症などの危険があるそうだ)、『小中一貫教育コーディネーター配置』『外国人英語指導事業』などの、先進的な方針が次々と打ち出されている。

そういえば、市役所もモダンで美しい建築だ。これはいったいどういうことなのか?

取材時にヒアリングするとともに筆者が独自に調べたところ、その秘密の一端は現市長にあるらしい。

いなべ市は2003年に、員弁郡北勢町・員弁町・大安町・藤原町の4町が合併して発足しており、その初代市長に就任して、6期、現在まで21年間に渡って市長を務めるのが日沖靖さんだ。

大安町では1995年に町長が収賄容疑で辞職する汚職事件があった。その時に「なんとかせねばならない」と36歳で立候補し、当選、大安町長を3期に渡って務めたという。


(いなべ市ウェブサイトより)

日沖さんは、京都大学農学部卒の優秀な人物。強豪として知られる京都大学ギャングスターズ(アメリカンフットボール部)に在籍、甲子園ボウルにも出場。卒業し、住友商事に5年間勤務後、オクラホマ大学体育学部助手、ミネソタ州立大学アメリカンフットボール部コーチを務めるなど、海外で教育に携わる経験をした後、1990年に実家に帰り、農機具店を継いでいたところ、件の汚職事件があり、義憤に駆られて町長選に出馬されたのだという。

以来、町長として3期8年を勤め、市町村合併の折には、員弁町長を10期勤めた太田嘉明さんを破って初代いなべ市長となり、以来21年6期にわたって同市の市長を務めている。

人口4万5000人の小さな市とはいえ、実は同市にはトヨタ車体の工場(アルファードはすべていなべ市で組み立てられている)、デンソー、神戸製鋼、パロマ、太平洋セメントなどの工場があるなど税収は豊富。それを活かして暮らし良い市政を行っているのは日沖さんの業績といえるだろう。

良い首長を市民自身が選ぶのはとても大切なことなのだと感じた。

また、実は、教育長の小川さんは、日沖さんと同年齢で、旧友。市長と協力して、いなべ市の教育に尽力されてきたようだ。トップダウンだけがすべてではないが、市長、教育長が長期的視野を持ってICTに大きな予算を割いて推進してきた。これが現在のいなべ市の素晴らしいICT教育を実現する原動力となっているのは間違いなさそうだ。

(村上タクタ)