大規模プロダクション化とブランド化(2020年ごろ以降)
2020年以降、HIKAKINの制作体制は格段にスケールアップを遂げる。
一本の動画にかける企画力や編集コストは増し、映像表現の高度化や大型コラボ企画により、一本あたりの尺もさらに長大化。
視聴者は単なる「動画」ではなく、テレビ番組並みの構成・演出で仕上げられた「体験」としてコンテンツを楽しむようになり、結果として動画時間の伸長はむしろ歓迎されるようになっていく。
また、この時期のHIKAKINはYouTubeの枠を超えた「ブランド」としての地位確立にも力を入れる。
その一つが、2023年4月に立ち上げた「HIKAKIN PREMIUM」だ。同ブランドは、HIKAKINがこれまで築き上げてきた信用や世界観を、モノづくりというフィールドでも展開する試みである。
第一弾として日清食品とのコラボでリリースされたカップラーメン「みそきん 濃厚味噌ラーメン」は、YouTuber発の商品として大きな注目を集め、エンタメブランドとしてのHIKAKINの存在感を際立たせた。
さらにYouTubeのアルゴリズムが「再生回数」より「再生時間」を重視することが明らかになっていったのもこの時期。
これは、広告出稿で利益を得るYouTubeとしては、ユーザーが長く滞在して多くの広告を視聴してくれるように促す動画を優遇するという仕組みだ(HIKAKINと並ぶトップYouTuberであるヒカルの動画が好例で、現在の彼の動画は1時間どころか2〜3時間以上の尺も当たり前になっている)。
視聴者も長い動画に慣れ、アルゴリズム的にもYouTubeは長尺動画を好む傾向を強めた。
さらにHIKAKINの動画は「HikakinTV」というチャンネル名通り、従来のテレビ需要へと食い込んでいく流れをずっと持っていた。
これらの点から、HIKAKINの動画が長尺化するのは自然な流れだったと言えるだろう。
ファミリー層への訴求やブランド展開、そして制作体制の強化を通じて、ただのコンテンツクリエイターではなく、日本発の「総合エンタメブランド」としての地位を不動のものとした存在。それがHIKAKINだ。
もちろん彼の躍進にとって、先行者メリットが大きな「てこ」となったのは間違いない。
しかし、多くの古参YouTuberがその人気をシュリンクさせていった状況を見れば、HIKAKINが運と実力、そして努力のすべてを兼ね備えたスターであることに、疑いようはないだろう。
文/照沼健太