Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

映画『スター・ウォーズ』に登場するハン・ソロとチューバッカの愛機「ミレニアム・ファルコン」は、ハイパードライブという推進システムを起動させることで、光速を超えた移動ができます。

しかし私たち現代人は最新テクノロジーを持ってしても、光の速さで移動する技術をまだ実現できていません。

「まだ実現できていない」というより、光速で移動することは「物理法則的に不可能」とされているのです。

けれど今回はそうした限界を取っ払い、「もし人間が宇宙空間を光速で移動できたら、どんな体験ができるのか」を空想科学してみましょう。

目次

質量があるものは「光の速さ」に到達できない「光の速さ」は誰が見ても一定、そして時空はゆがむ亜光速の旅で「時間の差」はどれくらい出る?光速に達した世界とは

質量があるものは「光の速さ」に到達できない


光の速さは特別/ Credit: canva

光の速さはとても特別です。

その速さは秒速29万9792キロメートルに達し、わずか1秒で地球を7周半もできます。

では、光速の一体どこが特別なのでしょうか?

その秘密は天才物理学者アインシュタインが1905年に提唱した「特殊相対性理論」によって明かされました。

アインシュタインの理論によれば、「質量のあるものは光速に到達できない」というのです。

それはなぜでしょう?

特殊相対性理論に基づくと、質量のある物体を加速させていくと、それにつれて質量もどんどん増大していきます。

そして光速に達する頃には、物体の質量は無限大となっており、物体が光の速さを保つのにも無限大のエネルギーが必要になります。

無限大のエネルギーなんて供給することはできませんから、ちょっとでも質量があるなら光速に達することはできないのです。

ただ非常に軽い物質なら光速に限りなく近づけることはできます。

実際に人類はLHC(大型ハドロン衝突型加速器)を使って、粒子を光速の99.99999896%まで加速させることに成功しています。


LHC(大型ハドロン衝突型加速器)/ Credit: canva

しかしこれは裏を返せば、「質量0のものだけが光速に到達できる」ことを意味しています。

この場合の質量0のものとは主に「光子(フォトン)」を指します。

光子は質量を持たない粒子です。

質量のあるものは加速するためにエネルギーが必要ですが、質量0の光子は加速するためにエネルギーが必要ありません。

しかし逆に光子は停止することもできません。

アインシュタインの相対性理論によると、質量0のものが光速以外のスピードで移動すると、運動量やエネルギーの関係が崩れ、物理法則が崩壊してしまいます。

つまり、質量のない光子は常に光速でしか移動していられない存在なのです。

止まることができないという点では、むしろ不自由と言えるかもしれませんね。

ここまでを踏まえて、すごく現実的な結論を出すと「質量のある生身の人間はどうあがいても光速では移動できない」ことになります。

ただ、それで終わりではつまらないので、ここでは物理法則を無視できる”魔法の力(=空想)”を使って、人間をどんどん光の速度まで加速させてみましょう。

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「光の速さ」は誰が見ても一定、そして時空はゆがむ

では早速、人間を光の速さまで加速させてみましょう!…といった側から問題発生です。

現実的な問題を考えると、人体はあまりに強烈な加速には耐えられないのです。

加速がキツすぎると、体に加わるG(重力加速後)が過度に大きくなり、血液が手足に送られなくなります。

F15のような戦闘機だと9Gがかかる動きもできますが、それ以上になると血液が体に回らずにブラックアウト(失神)してしまいます。

光速への加速となると、戦闘機の比ではありません。

生身の人間をわずか数秒の間に光速まで加速させたら、あっという間にペシャンコになるでしょう。


戦闘機の9Gでも失神するのに、光速までの加速には耐えられない/ Credit: canva

なのでここでは、どんな加速度からも守ってくれる”魔法の膜”で人体を包み、光の速さまでどんどん加速させてみます。

すると人体が光速に近づくにつれて、地上ではあり得ない現象が起こり始めます。

まずもって、宇宙空間で進む光の速さは誰が見ても一定で変わらないことがわかるでしょう。

これはアインシュタインが特殊相対性理論の中で示した「光速度不変の原理」と呼ばれるものです。

例えば、魔法の膜をまとった人間が光速の60%のスピードで宇宙を飛んでいるときに、横から光が追い抜いていったとします。

普通に考えれば、その光の速さは光速の60%で移動している人からすると、光速の40%のスピードに見えると思いますよね。

これは誰もが日常的に経験していることです。

例えば、時速60キロで走る車は、地上に立っている人からすると、そのまま時速60キロで走っているように見えます。

しかし時速40キロで走っている車からすると、本来より遅い時速20キロに見えるのです。だから高速道路で追い抜かれるとき、自動車はゆっくりと横を通り過ぎていくように見えます。

ところが真空中を進む光速ではこれが起こらないことが現代物理学の観察結果となっています。

つまり、宇宙空間で止まっている人にとっても、光速の70%で飛んでいる人にとっても、光の速さはまったく同じ秒速29万9792キロメートルに見えるのです。


光の速さは誰が見ても一定で変わらない/ Credit: canva

ところが「光の速さが誰から見ても一定である」というルールを受け入れてしまうと、物理的に矛盾が生じます。

本来の物理法則であれば、光速の60%で飛んでいる人には光の速さが通常より遅く見えるはずなのに、実際にはこれが起こりません。

そこでアインシュタインはこの矛盾を解消するために、逆転の発想をしました。

つまり、光の速さがどんなスピードで移動している人にとっても同じに見えるように、「時間」と「空間」の側が歪むのだと。

小学校でも習う通り、速度とは時間×距離で表されます。どんな速度から見ても相対速度が一定になるよう辻褄を合わせためには、時間と空間を歪めてしまうしかないのです。

アインシュタイン以前、「時間」と「空間」は誰にとっても絶対的であり、不変であると考えられていました。

しかしどんな速さで進む人にとっても光の速さが変わって見えないのであれば、どんな人にとっても光の速さが常に一定(秒速29万9792キロメートル)に見えるように、時空間の方を調節しようというのです。

例えば、光速の60%で移動する人にとっては、光の速さが秒速29万9792キロメートルになるように時間の方が遅くなります。

要するに「時間」と「空間」の感じ方は絶対不変ではなく、それぞれの速度で進む人によって相対的に変わるものとなるのです。

これがアインシュタインの唱える「相対性」の基本的な意味となります。

簡単なイメージを挙げるとすると、地上にいる人の1時間は、光速に近いスピードで移動する人の1分に相当するようなものです。

これは空間でも同じで、地上にいる人からは10メートルに見える棒が、光速に近いスピードで移動する人にとっては1メートルに縮んで見えるという現象が起きます。

ではもっと具体的に、光に近い速さ(亜光速)で宇宙を旅すると、地上にいる人とはどれくらいの差が現れるのでしょうか?

亜光速でちょっくら火星にでもひとっ飛びしてみましょう。