DTM(Desk Top Music)関連機器の売り上げが回復し始めた。特に今年2月にオーディオテクニカがリリースしたオーディオインターフェイスの新製品「AT-UMX3」が好調。市場全体を押し上げる効果までもたらしている。全国の家電量販店やオンラインショップなど、約2300店舗の実売データを集計するBCNランキングで明らかになった。
BCNがDTM関連機器に分類する製品は、大まかに二つの系統が混在している。一つは鍵盤やドラムパッドなど、PCを使って音楽を奏でる際に用いるMIDIコントローラ。もう一つは、マイクなどの音をPCに取り込む際に使用するオーディオインターフェイス系の製品。MIDIコントローラは、多種多様の製品があるものの販売数が比較的少ない。オーディオインターフェイス系の製品は、限られたラインアップながら販売台数が勝る。MIDIコントローラがほぼ音楽用途に限られる一方、オーディオインターフェイス系の製品は音楽用途ばかりでなく、音声を取り扱う幅広いユーザーが対象であるためだ。
コロナ禍ではオンライン会議需要が急速に立ち上がり、マイクの音声をPCに取り込む用途として、一気にオーディオインターフェイスのニーズが高まった。人気が高かったのがヤマハのAGシリーズ。特に、マイク1本とその他の機器2台を接続できるAG03の売り上げが好調だった。コロナ禍の終息とともに需要が落ち着きを取り戻した後も、新製品の登場などで一定の需要は維持してきた。2022年4月、ヤマハはミュートボタンを取り付けるなどした後継機、AG03MK2をリリースした。価格がこなれてきた23年5月、平均単価(税抜き、以下同)が1万5000円を下回ると売り上げが拡大。新製品高価で昨年秋までは、販売台数メーカーシェアでトップを獲得する月も多かった。
現在のトップシェアメーカーはinMusic Japan。AKAIやAlesisなど音楽制作系ブランドを数多く抱え、M-Audioなどオーディオインターフェイスにも強いブランドも擁する。同社はMIDI系にもオーディオインターフェイスにも強く、この1年、高いシェアを維持しトップを走り続けている。11月現在の売れ筋は、M-Audioブランドの32鍵キーボード「KEYSTATION MINI 32 MK3」。平均単価5000円前後と手ごろなのが受けて、コンスタントに売れ続けている。同ブランドのオーディオインターフェイス「M-Track Duo」も6000円前後の手ごろな価格で売れており、同社のシェアを支えている。ヤマハがシェアを大きく失った昨年末以降は独走状態だ。
ヤマハの「AG03MK2」(左)とオーディオテクニカの「AT-UMX3」
こうしたinMusic Japanとヤマハの間に割って入ってきたのが、オーディオテクニカだ。同社はヘッドホンやマイクなどで知られるオーディオメーカーの老舗。古くはレコード針や針の振動を音に変換するカートリッジのメーカーとしても知られている。今年の2月に同社が発売した、オーディオインターフェイスの新製品「AT-UMX3」は、ヤマハのAG03に似たコンセプトを持つ。よりオンライン配信での使い勝手を意識した。コンパクトながら、同社製マイクとの相性も良く人気化。11月現在でのDTM関連機器の中で、ダントツの売り上げを記録している。特に11月は平均単価が1万5000円台まで下がったことで売上を伸ばした。このカテゴリーでオーディオテクニカが販売している製品はこの1機種だけ。にもかかわらず、販売台数メーカーシェアでヤマハを抜いて2位に浮上。トップシェアのinMusic Japanの背中も見えてきた。
この勢いのおかげで、DTM関連機器市場全体にも活気が戻りつつある。10月の販売前年比は台数107.1%、金額も112.1%。15カ月ぶりに台数と金額が揃って前年を超えた。11月は台数こそ98.5%とわずかに前年を下回ったが、金額では105.4%と引き続き前年を上回っている。音楽だけでなく音や映像をPCで扱う機会が増えている。今後も、オーディオインターフェイスなどの音楽プラスアルファの周辺機器需要が、DTM関連機器市場を左右することになりそうだ。(BCN・道越一郎)