恵比寿のエステサロンで働いている晴乃は、同い年のお客様である港区女子のまひなから誘われ、ギャラ飲みに参加する。気乗りはしなかったが、同席していた社長からポンと自分では買えない最新型のスマホをプレゼン...
したたかな女の「成功談」は嫌われる
ネットを眺めていると『パパ活女の悲惨な末路』がこれ見よがしに提示される。高慢で惨めな女は娯楽として消費されがちだから。
だけど、したたかな女の成功談は耳にほとんど入って来ない。
おもしろくないからだ。あっても、悪意ある表現で語られ、それが一歩踏み出そうとする女の呪いとなっている。
私の憧れの女性だ(写真:iStock)
カウンターでひとり、鮨をつまむ友梨佳は格好よかった。
だけど、あのおじは惨めな女だと表現していた。同意できなかったことを思い出す。
「じゃあ、お疲れ様。がんばってね」
サロンから出ようとする友梨佳の背中が目の前にある。
7cmのハイヒールでまっすぐ立つその背中は大きい。距離は近いのに、まだ遠い背中。早く辿りつきたいと、素直に見上げる。
「後悔しないように生きます」
「まぁ、すべてが自己責任だけど」
友梨佳は、ニヤリと微笑んだ。清潔感あるヌードなルージュに彩られた口元から、綺麗にホワイトニングされた歯をちらりと見せて。
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自分の選んだ方法で後悔したい
おじに頼る生活は、もういい(写真:iStock)
個人的な関係を誘って来たおじには、丁寧におことわりを申し出た。
以降、月を経るごとに連絡は途絶えがちになっているが、それはそれでいい。自分を尊重してくれるおじはまだたくさんいるのだから。
はじめてのギャラ飲みから半年。晴乃は、相変わらずの日々を過ごしていた。変わったのは友梨佳のテストに合格し、お客様の前に立つことができるようになったくらいだ。
色々言う人はいる。
だけど、後悔をするなら自分の選んだ方法で後悔したい。
言われたとおりにして、その選択が間違っても、その人は責任をとってくれない。だから、したたかに、まっすぐに、生きる。
後悔のない人生をしたたかに送ろう
まひなは強く生きているはず(写真:iStock)
休憩時間、Diorのチャームが揺れるiphoneで、母親へ今朝届いたお米2kgのお礼LINEを送った。
連絡帳を眺めていると、気がつけばここ数カ月、まひなからの連絡が来ないことに気づいた。
サロンにもやって来ない。
この前赴いたギャラ飲みの現場で、太おじに切られたとか、整形に失敗したなどという真偽不明な噂は耳に挟んだが…。
「ま、いいか」
知らせのないのは良い便りだと晴乃は思うことにする。
まひなが後悔のない人生をしたたかに送っているのを願いながら。
Fin
(ミドリマチ/作家・ライター)