鈴鹿サーキットで行なわれたスーパーフォーミュラの公式/ルーキーテストには、F1ドライバーのオリバー・ベアマンがKids com Team KCMGから参加した。3日目のみの走行となったが、そのパフォーマンスをチームも高く評価した。
既に代役としてF1参戦経験があり、来季はハースからF1にレギュラー参戦することになっているベアマン。彼の参加は大きな話題となったが、パフォーマンス面でもその期待に違わぬものを見せた。
今回のテストのテーマがF1日本GPの開催地である鈴鹿サーキットの習熟だったこともあり、ベアマンは午前セッションでは習熟をメインにショートランを繰り返した。タイムは走るたびに上がっていき、最終的には1分36秒940を記録。これはセッションに参加した12台中3番手であった。
KCMGの土居隆二監督によると、ベアマンはFIA F2で使ってきたシートを持ち込んでいたため、スーパーフォーミュラの車両に適合させるためにモディファイの作業が必要だったというが、ベアマンは余計な注文をつけることもなく「大丈夫、これでいいよ」とすんなり受け入れたという。そのため、シートポジションも完璧ではなかったと推察される。
ベアマンは午前のセッションで24周を走った。……というと、それなりに走行しているように感じられるが、ショートランのプログラムでは「アウトラップ→ウォームアップラップ→アタックラップ→クールダウンラップ(インラップ)」といったように、数周かけて1サイクルとなるため、実際にレーシングスピードで走ったラップはかなり少ない。
ベアマンが午前セッションでレーシングスピード(つまり1分30秒台〜1分40秒台前半)で走ったラップはたったの7周。しかも新品タイヤでアタックしたのは、ラストアタックの1回だけだった。そんな少ない走行機会で、初日や2日目から走行しているドライバーと遜色ないタイムを記録したことには、土居監督も舌を巻いていた。
「プッシュラップをしたのは本当に数周ですが、それでもう36秒台ですからね。これだけ難しいと言われているサーキットで、簡単にタイムを出しましたよね」
「それに彼はコースを習熟するという自分の目的をよく分かっています。これでレースに出るわけでもないし、スタート練習する必要もない……。大事なポイントをしっかりと抑え、エンジニアとデータを比べたり、前日にも仁嶺(KCMGの今季レギュラードライバーの福住仁嶺)と食事をして必要な情報を収集していました」
「今日は風向きも変わってしまったようで、昨日と比べてコンディションもあまり良くなかったんじゃないかと思いますが、あっという間に36秒台に入って、みんなで『さすがだな』と言っていました」
午後のセッションはまずロングランから始まったが、ベアマンは走り出しから1分41秒7、1分41秒8、1分41秒9、1分41秒8、1分41秒7、1分41秒8と極めて安定したペースでタイムを揃えていた。その後はショートランに切り替え、新品タイヤでのアタックに入ろうとしていたが、ターボトラブルが出たことでテスト終了となった。エンジニアのコシモ・プルシアーノによると、アタックラップをスタートして1コーナーに入る直前にエンジンのカットオフがあったという。
午後セッションは堤優威(VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)のクラッシュで赤旗終了になったため、他のドライバーもラストアタックができないままテストを終えることになった。プルシアーノはベアマンがアタックできていればどのくらいのタイムが出たか予想するのは難しいとしながらも、同じくKCMGからテストに参加して午前に1分36秒383という好タイムをマークしていた野中誠太との差は縮まっていただろうとした。
またプルシアーノは、ベアマンのテストをこう総評した。
「とても良かった。彼はおおらかな性格でありながら情熱もある。早くマシンに乗って鈴鹿を走りたがっていたね」
「彼にとっては初めての日本になったが、彼の実力を考えても、期待通りの進歩を見せたと言えるだろう」
またベアマンがチームを唸らせたのは、パフォーマンスだけではない。土居監督曰く、誠実なファン対応に代表される人間性も印象的だったとのこと。テスト当日、KCMGのピット前には人だかりができていたが、ベアマンは時間の許す限りサインや写真撮影に応えていたという。
「ベアマンはトラブルの割を食うことになってしまいましたが、腐ることなく『楽しかったよ』と言ってくれて、チームのひとりひとりに挨拶してくれました。全員で集合写真も撮りたいと言ってくれました」
「可能な限りファンサービスをしてあげたいという気持ちも見て取れました。あれだけたくさんの人に囲まれると、周りが言う前にドライバーから『もう行かなきゃ』と言うのかと思ったら、周りが止めない限りはひたすらサインを書いていましたね」
「本当に19歳とは思えない。プロとしてのファンサービスに関しては、日本のドライバーでも出来ている人はたくさんいるとはいえ、もっとああいうレベルまで(できれば)と思いました」