尹錫悦大統領による「戒厳令」発令の余波が続く韓国。本来であれば、これほどまで恰好なネタを目の前にブラ下げられて大人しくしているはずもない北朝鮮が今、謎の沈黙を貫いている。

 韓国から金正恩総書記に対する批判ビラ風船が飛来すれば、北朝鮮側は汚物風船を韓国に向けて飛ばし威嚇。妹・与正氏が談話で尹政権を口汚く罵り、その後、南北軍事境界線付近の韓国とつながる道路を破壊したことは記憶に新しい。

 しかし、12月3日の尹氏による戒厳令が発令されバタバタが続く中、北朝鮮側からのコメントは一切聞こえてこない。その代わりに流れてくるのが、北朝鮮がロシア派兵の見返りにロシア製の高い能力を有する戦闘機を求め軍事力の大幅強化を狙っている、あるいは、北朝鮮がロシアに長射程砲を追加で提供したといった、対韓国問題など視野にないと言わんばかりの情報のみ。

「つまりは天敵だった尹大統領が遅かれ早かれ失脚することを想定してのこと。そして、次期政権を握るのは、おそらく反日姿勢を剥き出しにしてきた文在寅元大統領の愛弟子である、共に民主党代表の李在明であること。加えて、かつての“盟友”トランプ氏が次期米大統領ならば、正恩氏にとって対韓国については思惑通り物事が動く可能性が高く、ことさら心血を注ぐ必要がない。であれば、まずはロシアとの関係を強化していくことが何より重要で、それが長射程砲の提供だったと考えられます」(国際部記者)

 韓国メディアの報道によれば、その長射程砲は、韓国ソウルなど首都圏打撃用として前方に配備された700門の170ミリ自走砲と、240ミリ放射砲(多連装砲)体系で、なんとその30%がすでにロシアへ移されたという。

 10日付の米軍事専門メディア「ウォーゾーン」によれば北朝鮮は、派兵や長射程砲などの見返りとして、ロシアと「MiG-29」や「Su-27」などの戦闘機供与交渉を行っており、すでに一部合意に達したと報じている。

「両戦闘機ともに最新鋭ではないものの、北朝鮮が所有する古く錆びついた戦闘機とは雲泥の差。これらを手にすることで、北朝鮮の軍事力が大幅に強化できることは間違いないはずです」(同)

 英国際戦略研究所に調べでは、北朝鮮空軍が所有する戦闘機は約400機で、そのほか軽爆撃機約80機、輸送機約200機を保有していると推定されているが、その大半は飛行が危なっかしいほど老朽化が激しいという。

北朝鮮としては、これを契機に老朽化した戦闘機を一掃し新しい戦闘機を入手すると同時に、その操縦技術と爆破技術も学ぶことができる。そうなれば、もはや韓国などまったく恐るに足らぬ存在になるはず。それよりも今回、盟友であるヒズボラを通じ深い関係にあったシリアのアサド政権崩壊でアメリカが出てこなかったことで、ならばロシアとの関係をさらに緊密にすべき、との考えが強くなったのではないのか。というのも、中東は北朝鮮にとって武器弾薬輸出の一大ブラックマーケットだけに、今まで通りの取引は続けていきたい。その間に立っていたのがアサド政権だったこともあり、シリア内戦の終結は北朝鮮にとっても一大事となったはず。そこに、韓国での想定外での非常戒厳発生というドタバタが起こったということでしょうね」(同)

 いずれにせよ、ロシアが弱体化しなければ北朝鮮も当分の間、この関係を維持していくことは間違いない。北朝鮮が韓国に対し“沈黙”を破る日はいつなのか、さらにその際、正恩氏の口からどんな言葉が出てくるのか。

灯倫太郎

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