北海道のドライパウダーで『地球の輪』に溶け込む体験を  バックカントリーガイド 佐々木翔平-CIRCLE GAME

人生を変えた利尻岳との出会い

2019 年、利尻山での修行時代。雲の切れ間から見えるのは礼文島。

そのノマド修行時代の冬に、ガイドとして育ててもらう利尻山との出会いがやってきた。

「利尻山のBCツアーがあって、僕は必要なかったんですけど『行きたい』ってついていきました。そしたら、すごい山だったんですよね。大輔さんの利尻大滑走の映像を見て知ってはいたんですけど、想像を超えてきたというか。まず、びっくりしたのは標高差。350〜400mを一本で落とす。ガイドツアーで行ける範囲の北海道の山って、そんなに長く滑れなくてせいぜい150mとかそんなもんなんですけど、倍は滑れた。しかもそんな斜面が無数にあるんですよ。ここで勉強したいなと思いました。そのときは、そのまま帰ったけど、シーズン終わった後に、『利尻自然ガイドサービス』の渡辺敏哉さんに連絡しました」

こうして2017年12月から渡辺敏哉さんのもとへ通うことになった。利尻に通い始めて、今シーズンで8年目になる。
「独立したいまも2、3月を合わせて、3週間くらい敏哉さんのところでガイドをしています。ぶっちゃけ自分でツアーをした方が、収入がいいのは間違いない。だけど、利尻が本当に好きなんで、敏哉さんと利尻をガイドするのが楽しくて、一番好きなんで。あと僕を育ててくれた敏哉さんへ恩返しという意味もあります」

2018 年、利尻山での修行時代。右端が佐々木、左端が渡辺敏哉ガイド。お客様と海をバックに利尻ら
しい 1 枚

利尻山ほど、ガイド修行に適した場所はないと佐々木は断言する。
「降雪量が多いうえに、風が毎日強い。厳冬期にスキーアイゼンを使うことって、ほぼないじゃないですか。利尻はガンガン使う。そして、いい雪を滑る。休憩する場所、歩くライン、一つ一つの行動に意味を持たせるというか、「なんでこうしたの?」って聞かれたらすぐ答えられるように常に行動しています。そういうのを一個でも外すと、うまく行かないのが利尻なんで、これ以上ないガイド修行の山だと思います」

2018 年、朝日に照らされた利尻山東稜を進む。写真:國見祐介



そんな貴重な経験を積みながら、ちょこちょこ本州へ通い、2018年4月にスキーガイドステージⅠを取得。スキーガイドステージⅡを取得した2022年にガイド会社『CIRCLE GAME』を立ち上げた。

「僕のガイディングの7割は、渡辺敏哉さんでできています。僕はあまりおもしろいことは言えないからスタイルは、真逆なんですけど(笑)。ガイド見習いって、1人の師匠について勉強することが多いけど、僕が恵まれていたなって思うのは、いろんな人のガイドを見れたこと。僕ほどいろんな人のガイディングを見たことあるガイドは、いないんじゃないかっていうくらい。

というのも敏哉さんの『利尻自然ガイドサービス』は、スキーガイドステージⅡをもっているガイドが2人体制でやっています。僕が修行していた頃は、敏哉さんのほかに、金村孔介さん、狩野恭一さん、武石誠さんなど、いろんなガイドと山に入る機会がありました。いろんなスタイルのガイディングを間近でみれたことは、ガイドとして大きな糧になっています」

独立したいま、今後の理想は『CIRCLE GAME』のツアーで利尻山を滑ることだろうか? 

「利尻は敏哉さんの『利尻自然ガイドサービス』1本で行きたいと思います。利尻はやっぱり特別なんで、外せない。一方で、『CIRCLE GAME』の仕事は、詰め込みすぎず、休みながら適度にやっていきたいですね。体力的にもそうですけど、夏とは比にならないくらい頭を使いますし、ストレスもあります。いまくらいが、ちょうどいいなと思っています」

2024 年、昨シーズン、スキーを始めた 3 歳の息子と

佐々木は、律儀で、欲がない。独立した身なのに、もっともいい雪がいい稼ぎどきに他社でガイドしているのだから。ちなみに佐々木は、子供が騒ぐからと車中でオンラインインタビューに答える2児の父である。

若かりし頃、知らない人に物乞いまでして雪山と対峙していたお父さんは、メンタルもフィジカルもいろいろ強い。


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ガイドのスキルアップに終わりはない

2024 年、利尻でガイド中の 1 枚。標高 1000m 以下にこの景色が広がっている


というわけで、1月と利尻へ行かない2、3月は、『CIRCLE GAME』代表としていい雪を求めてガイドしている。
「人混みが好きじゃないので、できるだけ人がいないところを選んでいきます。メジャーな山であっても、入山口と下山口しか人に会わなかったねっていうマイナールートへ。誰もいないところへ行くってのは、それだけリスクが高くなって、みんながみんな行けるってわけじゃないけど、『人が少ないところで、誰も滑ってないところを滑ってもらう』っていうのが、一つ考えているところではあります。エリアは、拠点の札幌周辺とよく滑っていた旭川周辺、割合としては半々くらいでしょうか」


他人と同じことは大嫌いな天邪鬼は、ウエアにも反映されていた。学生時代からヤフオクで見つけては買っていたというお気に入りのスウェーデンブランド「クレッタルムーセン」は、自ら代理店へお願いして、サポートを受けている。好きなものを身につけ、好きなことで生計を立てているガイドは、自分の雪山も大事にしたいと願う。

「大学生のときやガイド始めて1、2年目は、ただただ滑ることが好きだった。パウダーを滑って、気持ちいいって。でも、徐々にいい雪を滑りたいっていうパウダー滑走欲がなくなってきて、最近は行ったことのない山域に地形図だけ見て、行くっていうのが好きで。こういうプライベート山行が下見や開拓となって仕事につながるのが、理想ですね」

大学3年のときにスキーガイドになりたいと志願し、思い描いた理想像には、達したと思うと佐々木は笑う。しかし、20代前半に藁をもつかむ思いで、谷川連峰へ飛び出した頃のように、佐々木はまだ悶々としていた。

「スキーガイドステージⅡもとったし、お客さんもいらっしゃるし、サポートしてくださるメーカーもたくさんある。ガイドを志したときの夢というか目標は、叶った。けれど、ガイドのスキルアップには終わりはなくて、その次にどうなっていくかっていうところを悩んでいます。

今後、山岳の資格も取りたい気持ちもあります。アイゼンをガンガン使って、お客さんを連れていける範囲を広げていきたい。でも、いまは家族が増えて、そこへ全力で向かっていない感じがする。難しいですね。結構、悶々としてます」

2023年、利尻山。長年山行を続けてきた國見との1枚。この写真で雑誌( Fall Line)に掲載されるという目標が叶った。写真:國見祐介

佐々木は今年で32歳になった。日々積み重ねる血の通った経験が、並外れた体力を覚まし、仲間から刺激を受け、さらなる頂へと己をプッシュしていきたいという野心は、自然の流れというものだろう。悶々とできるのは、若さゆえ。伸びしろは、利尻の広い裾野のごとく広がっている。

Profile】

佐々木翔平(ささき・しょうへい)

1992年、北海道七飯町生まれ。札幌を拠点に北海道の山々をガイドする『CIRCLE GAME』代表。幼少期からスキーに親しみ、北海道教育大学在学中に雪山の世界にのめり込んで、中学校教諭一種免許状を持ちながらもガイドの道を志す。13年間没頭した陸上800mのベストタイムは1分58秒。2019年にはガイド仲間とデナリ山頂からのスキー滑走を成功。得意とするBCエリアは、札幌から旭川の静かな山域、利尻山。

日本山岳ガイド協会認定
登山ガイドステージⅡ
スキーガイドステージⅡ。


CIRCLE GAME guide service
公式サイト:https://circlegame.site/
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