高度何千メートルという過酷な環境で着用するために作られたフライトジャケットは無駄なディテールを一切持たない無骨さが男心をくすぐる。長い歴史とその多くの魅力を、改めて「バズリクソンズ」の亀屋氏に伺う。
無駄を排除した機能性がフライトジャケットの魅力。
フライトジャケット研究家・亀屋康弘さん|「バズリクソンズ」がブランド設立した30年以上も前からヴィンテージのフライトジャケットを研究してきた有識者。当時の貴重なジャケットを解体し、生地をカットして糸1本から復刻作業が始まる
第一次世界大戦で初めて戦場に投入され、第二次世界大戦では戦場の主力として重要な役割を果たすまでに進化を遂げる航空機。一歩間違えれば命を落とす、過酷な環境で着用するフライトジャケットはパイロットの命を左右する重要な衣服。国の叡智を集結した最上の戦闘服である。
そんなフライトジャケットに魅せられ、研究を続け30年以上。「バズリクソンズ」のディレクターであり、フライトジャケット研究家の亀屋氏にその魅力を伺う。
「学生の頃、アメカジに興味を持ち始めたのですが、学生という身分でしたので高価なものを買うことができず、比較的安価な古着を買っていました。そしていろいろな古着店に通うなかでヴィンテージの[A-2]に出会ったんです。その店のレジ横には飴色に輝いた[A-2]が偉そうに掛けてあって、その佇まいに魅了されたことがフライトジャケットに傾倒するきっかけとなりました」
アメリカの陸軍航空隊が夏季用のフライトジャケットとして採用した[A-2]。戦争勃発もあって、70万着という圧倒的な枚数が作られており、様々なコントラクターが製作。当時から人気の高いモデルだった
たった一着の[A-2]からミリタリー、フライトジャケットに興味を持ち、虜となっていく亀屋氏。その当時は、現行インポートの[MA-1]が流行していたものの、そのほかのジャケットについての情報はあまりなかった。
「当時は、いまの自分たちのようなリプロダクトのブランドもなかったですし、ネットなども発展していなかったものですから、情報が足りなかったんですよね。なので先輩に聞いたり、専門誌を見て勉強しました。自分がフライトジャケットに魅了されて興味を持つきっかけとなった[A-2]の歴史的な背景を調べると、第二次世界大戦中に米陸軍航空隊のパイロットが着用した夏季用のフライトジャケットであることも判明しました。そして、はじめはレザーだったものがコットン、ナイロンと変わっていき、軽く丈夫な素材に進化していくことを知りました。そこから他のフライトジャケットについても調べるようになり、その奥深さにどんどん引き込まれていくんですよね」
空という過酷なフィールドで着用するためのフライトジャケットはパイロットのために生み出されたいわば道具。極限まで無駄を削ぎ落とし、機能のみを突き詰めていく美しさがフライトジャケットにはあるのだ。
「フライトジャケットの魅力を一言で表すのであれば“機能美”ですね。過剰な装飾を一切排除し、パイロットがどれだけ確実に任務を遂行できるかだけを考えて作られたフライトジャケットは本当に機能美にあふれています。例えば『モディファイド』とモデル名に付くジャケットは改良が進んだ証です。ジェット機の時代が来るとパイロットがかぶっていたヘルメットが大型化し、それまでの大きな襟が干渉するという問題が発生するんです。それを解消するために、襟を外しリブが新たに縫い付けられる。そうしてモディファイドモデルが生まれるわけです。その合理的なところもアメリカらしい魅力です。航空機の歴史はフライトジャケットの歴史といっても過言ではないほどに、深く関わり、どうすればパイロットが任務を遂行しやすいか、を追求して進化していきます。すべてのディテールに意味があり、かつ機能的。そこがフライトジャケット最大の魅力なんです」
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【豆知識】フライトジャケットの着用温度域とは?
ヘビーゾーン
- 寒冷地用
- -10℃~ -30℃の気温域
- 主なモデルN-3B
インターミディエイトゾーン
- 中温域用
- 10℃~ -10℃の気温域
- 主なモデルB-15
ライトゾーン
- 高温域用
- 10℃~ 30℃の気温域
- 主なモデルL-2B