薛剣氏のXより
《#決定的に重要な視点が欠落してしまった日本被団協の残念なノーベル平和賞受賞》
自作の長文ハッシュタグを付けたポストで、《「アジア侵略加害の果ての原爆投下」この視点が全く欠けています》――。
《「祝い」!》と揶揄したあとで、《ある被爆2世の方が発した心ある叫び声》を引用しながら、日本被団協のノーベル平和賞受賞を批判したのは、本誌既報済み“ストロングスタイル”の駐大阪中国総領事・薛剣(せつ・けん)氏である。
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選挙介入投稿を日本政府からの要請で削除したにもかかわらず、わずか2週間でフォロワー数を1000人増やし、ますます血気盛んな薛氏(12月16日現在フォロワー数8.4万人)は、反省したのか否か知る由もないが、日本被団協の代表スピーチに噛みついたタイミングが凄い。
ノーベル平和賞の授賞式はノルウェー・オスロで10日午後9時から。その2日後の12月13日、満を持して、南京事件追悼記念日に合わせたかのように「アジア侵略加害の果ての原爆投下」とポスト。拙稿作成時点で、日本政府はなんの反応もしていないので、外交官は接受国の国内問題に介入しない義務を有すると定めたウィーン条約に違反していないようだ…。
12月13日は、1937年に日本軍が南京に入城した日で、2014年に全国人民代表大会常務委員会で『南京大虐殺犠牲者国家追悼日』として祭日に制定されている。
同日、薛氏は自身のX上に中国語で「12.13! 南京大虐殺で犠牲になった30万人の同胞への哀悼! 歴史を忘れず、未来に警告を発し、平和を維持し、中国の夢を実現しよう!」とポスト。一時、この投稿を固定ポストに設定していた。
薛剣氏のXより
続けて、同胞による似た内容のポストや、自身の追悼ポストをリポストした投稿をさらにリポストするなど立て続けに投稿し、南京大虐殺犠牲者国家追悼日一色に染め上げた。
薛剣氏のXより
もちろん「米国様」への牽制も忘れていない。
あいかわらずの“米国様”叩き
やはり同じ12月13日に、1995年6月26日、日米自動車交渉に臨んだ当時の橋本龍太郎通産相とミッキー・カンター米通商代表のTikTok動画をコメントと共にポスト。
《世界の混乱の元に成り下がった暴走米国様にちゃんと物を言える政治家が西側にいなくなって実に寂しい》
薛剣氏のXより
続けて、対中関税を強化する製品の追加を発表した米国政府に対して、《他者感覚がなく一方的な思考しかできない米国様、今度は中国による逆制裁を受ける段階に来ている。逆に首を押さえられ「息が苦しい」とこれまで以上に痛いのがご自身であることを一層理解を深めて貰う》と、クラッカーとくすくす笑いのイラストを3つずつ付けて挑発したほどだった。
薛剣氏のXより
くわえて、12月16日のポストでは、石破茂首相が提唱した「アジア版NATO」に横やり。《狂気の戦争マシン》としたうえで、《より大きな戦争準備の為に民衆の福祉を削減するべしと公然と洗脳をし始めている》と主張。日本と名指しは避けつつも、あたかも福祉財源を削減されるように日本人が洗脳されていると指摘したあと、石破首相と名指しは避けつつも「狂気の人間」による「愚行」を阻止するよう呼びかけている。
薛剣氏のXより
シンクタンク『言論NPO』などが日中共同で行った意識調査では、日本人に良くない印象を持つ中国人は87.7%だった。
12月13日は、現地の日本人学校では休校などの措置がとられたが、日本外務省の中国の危険情報レベルゼロのままで、見直しは検討されていない。また、薛氏の言う「米国様」はレベル3で「拘束の危険が存在」である。
12月13日、中国江蘇省の「南京大虐殺記念館」で開かれた犠牲者の追悼式典には、薛氏の上司にあたる習近平国家主席ら共産党最高指導部メンバーは出席しなかった。
対日関係への配慮をうかがわせたという見方もあるだけに、薛氏が頑なに崩さないストロングスタイルに今後も注目していきたい。
文/北上行夫
北上行夫(きたかみ・ゆきお)
ジャーナリスト。香港メディア企業ファウンダー。2001年より日系コンサルタント会社やローファーム向けに中国本土を含むASEAN販路開拓業務に従事。香港人/日本人/大陸人/華僑の不条理に挟まれ20年余、2018年より日本支社プロジェクトマネージャー。2023年より中華圏マーケット調査&ライターが集う「路遍社」に参画。テーマはメディアが担う経済安全保障。X(旧Twitter):@KitakamiYukio