かつて佐野航大が言った。「あいつなら絶対に決めてくれる」と。鹿屋体育大FW片山颯人が成長の糧にする原点「一生忘れられない試合」

 インカレ決勝ラウンド初戦・明治大学vs.鹿屋体育大学の一戦で、一際目を引いたのが鹿屋体育大の3年生FW片山颯人だ。

 とにかく動き出しが早く、相手の裏を常に狙い続けて、バランスが崩れた一瞬の隙を突く。180センチの2年生FW石﨑祥摩をターゲットにしながらも、その周囲を片山が常に動いて相手と駆け引きをすることで、明治大守備陣は彼のマークに困惑していた。

 ミドルサードではセカンドボールの回収をしたり、ロアッソ熊本内定のMF渡邉怜歩などの技巧派MF陣とパスやスライドの動きで関係性を作ってリズムを生み出すと、ファイナルサードではペナルティエリアを目掛けて動きに変化を加えながら加速して入っていく。

 それでも関東学生リーグ1部で無敗優勝を飾った明治大の鉄壁の守備を崩すことはできなかったが、0-0のスコアレスドローで勝点1は掴み取った。

「強い明治大が相手だったので、立ち上がりから全力で行こうと思っていた。ボールを持ったらまずはゴールを常に意識しているので、そこを出そうとしましたが、実際に戦ってみて、球際が強くて早くて、もう1つレベルを上げないとダメだと思いました」

 結果としてノーゴール。勝てなかったことで片山に笑顔はなかった。だが、何回も繰り返される出力抜群のスプリント、ボディバランス、そしてファイナルサードでの落ち着き。試合後、Jクラブのスカウトが印象に残った選手で彼の名前を口にするなど、片山が見せたプレーのインパクトは絶大だった。
 
 片山といえば、彼が高校3年時の福井インターハイの記憶がある。伝統の堅守速攻を敷く米子北において、その存在は強烈な矛と盾だった。矛の部分は前述した通りだが、盾の部分は前線からの献身的かつスピーディなプレスが真夏の福井で猛威を振るった。

 相手のビルドアップを遮断するようにショートスプリントを連続して、2度追い、3度追いは当たり前だった。

 印象的だったのは準決勝の星稜戦。片山は前線からの守備をしながら、大会初ゴールと1アシストの活躍。試合後にチームメイトで攻守の要だったMF佐野航大(現・NEC)が、「颯人がコースを限定してくれるので後ろは守りやすいし、前への勢いを高めてくれる。あいつならどこかで絶対に決めてくれると思っていました」と口にしたように、仲間からの信頼も厚い選手だった。

 決勝ではMF松木玖生(現・ギョズテペ)、宇野禅斗(現・清水)らを擁し、準決勝まで28ゴールと驚異の数字で勝ち上がってきた青森山田と大熱戦を演じた。結果は、1-1で迎えた延長後半ラストプレーとなったCKからDF丸山大和(現・東海大)に決勝ヘッドを叩き込まれ初優勝を逃した。

「青森山田戦はこれまでもこれからも一生忘れられないくらいの試合です。横綱と言われる相手をギリギリまで追い詰めたのに、最後の最後でやられてしまった。本当に悔しかったし、僕は最後までピッチにいたのに何もできなかった。でも、あの試合があったからこそ、もっと努力しないといけないと思ったし、この大会で鹿屋体育大に見てもらえて声をかけてもらった。自分にとって大事な試合です」

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 あの激闘を共にした佐野はファジアーノ岡山で結果を残し、海外に飛び立った。

「鹿屋に同級生がもう1人いるのですが、2人で航大のことはよく話します。もう凄すぎて、かなり上の世界に行ってしまいましたが、自分を奮い立たせる要因となっています」

 実はインカレで対峙した明治大のCB多久島良紀は、青森山田の2年生CBとしてインターハイの決勝に出場していた。「知っていたので絶対に負けたくなかった。でも、やっぱり強かったです」と口にしたように、片山にとってあのインターハイは、今も自分の成長に必要な大きな刺激を与えてくれる1つの原点となっている。
 
 あれから約3年半。成長した姿を全国の舞台で披露した片山は、刺激を受けた同級生たちが待つプロの舞台に向けて思いを強くしている。

「ゴール前の動き出しとか、ワンタッチゴールが僕の特長なのですが、こうしたレベルの高い相手と戦うことで、そこのスピードだったり、駆け引きのうまさだったり、ファーストタッチの質がちょっとずれただけでうまくいかなくなったりする部分を痛感しました。そこは改善していかないといけないと思いますし、反省だけではなく結果で示せるように取り組んでいきたいです」

 コツコツと積み上げた先にしか自分の将来は浮かんでこない。片山は自分のために、チームのために、これからも攻守において考えながらスプリントを繰り返す。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

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