先月行なわれたマカオGP フォーミュラ・リージョナル・ワールドカップには、TOM'SとTGM Grand Prixが参戦。日本のチームがマカオGPに挑戦するのは6年ぶりのことでした。
TOM'SとTGMは2台ずつエントリーし、それぞれ日本人ドライバーを起用しましたが、結果は残念なものだったと言うほかありません。決勝レースで生き残ったのはTOM'Sの小林利徠斗だけであり、それもチェッカーを受けたドライバーの中で最下位となる12位(15番手フィニッシュだったが、3台失格により繰り上がり)でした。
ただ、TOM'SとTGMの懸命な努力は、難攻不落のギア・サーキットでの成功への礎を築いただけでなく、日本チーム全体のレベルアップにもつながると期待されます。
TOM'SとTGMにとって、プレマ、ARTグランプリ、MPモータースポーツといった欧州の強豪を相手にすることは決して簡単なことではありませんでした。上記欧州チームが3台体制でエントリーしていた一方、TOM'SとTGMはそれぞれ2台体制。しかも4人共がマカオ初挑戦のドライバーでした。
またマカオGPの車両は、日本のフォーミュラ・リージョナルで使われている童夢製シャシーではなく、ヨーロッパ選手権などで使われているタトゥース製。事前のテスト機会も限られており、日本チームは使いこなすのに苦労しました。スーパーフォーミュラ最終戦を終えて直接マカオに向かうというハードスケジュールだったという点からも、理想的な準備ができたとは言えません。
TOM'Sの小林と中村仁、TGMの小川颯太と佐藤凛太郎という4人のドライバーは、程度の差こそあれど、ライバルに対して後れをとっていた感は否めません。ただ初日から続いた悪天候が彼らの学習の妨げになったのも確か。クラッシュが頻発して赤旗が何度も出されたため、グリッドが確定する予選2回目までに本格的なプッシュラップを実施できた回数は非常に限られていました。
彼ら4人は少なくとも1回はバリアの餌食となりました。ただし、予選中にRベンドで起きた中村のアクシデントは、ジェームス・ウォートンに追突されたことが原因であることを記しておく必要があるでしょう。ウォートンは決勝レース序盤のアクシデントにも絡んでおり、その事故現場を避けきれなかった佐藤がダメージを負ってリタイア、小林も身動きが取れなくなりポジションを落としました。
4人の中で明らかに目立っていたのは中村でした。彼がレース終盤のリスタート直前にクーパー・ウェブスターに追突してしまい、レースを終えたのは非常に残念でした。その時点で彼は10番手を走行しており、レース後に上位陣が失格になったことを考えると、完走さえすれば8位フィニッシュは堅かったでしょう。中村は来季の海外挑戦も噂されていますが、将来のライバルたちに対して競争力があることを示したとも言えます。
ドライバー選定という観点で、TOM'Sが今年スーパーフォーミュラ・ライツで走らせたトヨタの育成ドライバーふたりをマカオに連れて行ったのは合理的で想像し得る展開でしたが、TGMは白紙の状態からのスタートでした。チームとしては、マカオのベテランや外国人のペイドライバーを呼んでくるという手もあったでしょうが、池田和広代表はチームのシミュレータドライバーである小川と、元F1ドライバーでインディ500勝者の佐藤琢磨の息子・凛太郎を起用することを決断しました。
特に佐藤凛太郎は日本のFIA F4に参戦しているとはいえ、2001年のマカオGPウイナーである佐藤琢磨の息子がレース活動をしているということは、海外のファンにとって馴染みが薄かったでしょうが、今回のマカオ参戦でその存在が広く知られることになりました。
新人がマカオで活躍することは不可能とは言いませんが、経験が何より重要になってきます。このコースをシミュレータで正確に再現するのはほぼ不可能であり、今年表彰台を獲得したドライバーが皆昨年のレースにも参戦していたというのは、決して偶然ではないはずです。
予選、予選レース、優勝レースを制したのはマクラーレン育成のウーゴ・ウゴチュク。それら全てで僅差の2位に入ったのはレッドブル育成のオリバー・ゲーテでした。彼らは昨年のレースではパッとしなかったのですが、経験値がモノを言ったということでしょう。
逆に言えば、ウゴチュクとゲーテの活躍は小林、中村、小川、佐藤にとっても励みになるはず。経験を積んだことで、2025年に向けては魅力的な選択肢となる可能性があります。同時に、TOM'SとTGMが2025年のマカオGPに再び招待され、高い競争力を発揮できる状況になることを願うばかりです。
彼らにとって、マカオのオファーを断るのは容易なことだったでしょう。両者はスーパーフォーミュラ、スーパーGT、フォーミュラ・リージョナルに参戦していて、TOM'Sの場合はそこにスーパーフォーミュラ・ライツも加わります。そんな忙しいシーズン終盤にさらなる負担が掛かったのです。
しかしながら、ヨーロッパのライバルに対して不利という状況を理解しながらも挑戦を選んだ事実は、大いに評価されるべきです。特にメーカーからの支援を受けていないTGMはなおさらです。
両チームとも、世界の一流チームと競い合う価値を認識していて、そのための現実的かつ唯一の手段がマカオであることも理解していたのです。今回厳しい結果に終わった悔しさは、TOM'SとTGMの両チームにとって、もっと良い結果を目指すためのモチベーションにしかならないでしょう。
日本チームがマカオGPを制したのは、TOM'Sの国本京佑が勝った2008年が最後。来年いきなりの復活優勝を期待するのは流石に酷かもしれませんが、表彰台やトップ5フィニッシュを果たすことができれば、“成長痛”の報いとしては十分なものでしょう。